多発する自然災害。その対応に非正規公務員も動員されるケースが増えてきたが、安全配慮や給与の保障がない——全国の非正規公務員の当事者と支援者らでつくる「voices」のアンケートから、そんな実態が見えてきました。
1月15日、voicesが非正規公務員の雇い止めの実態把握などを求めた省庁懇談の場でアンケート結果が示されました。懇談参加者は総務省、厚労省、人事院の18人、voices側は17人。国会議員、区議、市議らも出席しました。
アンケートは昨年9月〜今年1月5日、voicesのオープンチャット参加者らを中心に行い、非正規公務員68人が回答を寄せました。
勤務先別では、災害対応にあたる基礎自治体(市区町村)が50%を占め、次いで国が25.8%、都道府県が24.2%でした。回答者の84.8%が女性でした。
非正規公務員として体験した自然災害は東日本大震災(2011年)が15人、能登半島地震(2024年)が8人、西日本豪雨(2018年)が6人。激甚災害に指定されていない豪雨・豪雪、水害・土砂災害に関わった人がそれぞれ22人、16人と多くを占めました。
安否確認なし6割、適切な出退勤の指示もなく……
自然災害の時に非正規公務員への安否確認が「あった」は29.2%、「なかった」は58.5%。出退勤の指示については、「適切だった」23.4%、「適切ではなかった」51.6%。自然災害対応に従事したかは「した」10.8%、「しなかった」83.1%でした。
voicesの藍野美佳さんは昨年夏、「台風対応に従事した」という非正規公務員の書き込みを読み、「非正規は災害対応に従事しちゃいけんと聞いていたのに……」と驚いてアンケートを企画しました。
実際に聞いて見ると、非正規の1割に対応経験があり、業務の内容は災害対応準備、避難誘導、避難所運営、食料配布、備品庫への物資の移動、災害復旧工事など多岐に渡りました。災害後の相談の増加や正規職員の穴埋めなどで業務が増えたという回答も多数ありました。
災害時に、非正規と正規の対応に差を感じたかについては、「感じた」が58.3%、「感じなかった」は28.3%。
【自由記述より】
・職場に設置してある災害時用ヘルメットが正規職員分しかなかった
・子どものいる正規職員は早く帰るなど自己判断をしていたが、非正規は自己判断をしたら怒られるので黙っていた。そうしたら電車が止まり、帰れなくなった
・台風直撃の日に正規にだけ帰宅指示が出たが、非正規にはなんの指示もなかった
・正規職員には避難所当番があったが、非正規は当番ではないため、平日夜間の避難所見回りなどは、給与は発生せず、あくまでボランティアだった
・非常時の緊急連絡網は正規職員のみ
・台風が接近して職場に夜中や朝まで待機させられても、振替休日などが与えられなかった
調査では非正規も含む避難訓練や防災訓練が行われていない、非正規にはヘルメットなどの防災用品が用意されていないなどの回答も3〜4割にのぼりました。
労務管理の外に置かれ危険を伴う業務
voicesのアドバイザーを務める和光大学名誉教授の竹信三恵子さんは「災害時に動員されて重い負担の仕事に就くことが少なくないにもかかわらず、労務管理の外に置かれ、危険を伴う災害下で必要な保護も受けられずにいる非正規公務員への差別待遇の一端が明らかになった」と分析しました。
内閣府は災害時の勤務について、国家公務員については「中央省庁業務継続ガイドライン」、地方公務員については「地方公共団体の業務継続の手引き」を定めています。各自治体はこれを踏まえて、職員の動員や安否確認のあり方を決めています。非正規も動員するかどうかは自治体の判断ということになります。
「非正規公務員は災害業務にあたっていいのか」との問いに、総務省の担当者は「各自治体が判断いただくこと」としました。「非正規には災害事故があった場合の補償がない」との指摘には「地方公務員災害補償法に基づく条例によって補償を行うという形になっている」と回答しました。ただし、この条例もすべての自治体で制定されているわけではありません。
1999年から2010年にかけての市町村合併で災害対応にあたる基礎自治体の職員数が削減された一方、対象区域が広域化し、災害時に正規職員だけでは手が回らない状況が生まれています。能登半島地震の被災地で避難所の夜の見回りに、非正規の保育士や介護職員があたっていたという話も報告されています。 懇談に出席した福島みずほ参議院議員は「非正規職員を災害対応要員として位置づけるのであるならば、安全配慮や勤務に応じた給与などの位置づけも明確にすべきだ」と要望を述べました。