【変わる議会傍聴】地方議会の標準規則が半世紀ぶり大幅改訂 デジタル活用や多様な人材参画促す

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地方議会の傍聴中、議会資料ってスマホで見られないんだっけ?

 全国市議会議長会、全国町村議会議長会が5日、傍聴者の服装や持ち物、禁止行為を定める標準議会傍聴規則を改訂した。議会運営のデジタル化を踏まえ、会議中の携帯電話端末の利用について初めて規定。全国都道府県議会議長会も昨年10月までに同様の改訂をすでに行った。各議長会によると、傍聴者の入場に関する条項は1960〜70年代に定められた規定が多く、大幅な見直しはおよそ半世紀ぶりとなる。生活ニュースコモンズが昨年12月に全国20政令市を対象に行ったアンケートでは、傍聴者が議事録を事前に確認したり、会議中に閲覧したりする環境には制約が多い実態が浮かんだ。傍聴席は地方自治の現場を知る玄関口。各地方議会は傍聴のあり方を改めて見直し、「開かれた議会」を住民の目線に立って議論していく必要がある。

スマホ利用を初めて規定 傍聴席で議会資料の閲覧可能に

 標準傍聴規則ではこれまで、傍聴席における携帯電話を含む電子機器の利用について具体的な規定がなかった。各地方議会の規則で、電源を切ることを求めたり、操作を禁止したり、対応はまちまちだった。

 今回の改訂では、初めて「携帯電話端末その他音を発する機器」の利用を規定。議会資料の配布や閲覧においてデジタル化が進んでいることを念頭に、町村議会、都道府県議会は「音を発しない状態」であれば、会議中でもスマホなどを使用できる旨を定めた。一方、市議会では「電源を切り、又は音を発しない状態」と表記した。全国市議会議長会は「市議会においては地方か都市部かといった地域事情、デジタル化の環境に幅広い差があり、電源を切るとの規定も残したいとの意見が出た」と説明。規定の運用や解釈は各市議会に委ねた形だ。

政令市20市の半数以上でスマホ利用禁止 デジタル化配慮に遅れ

 生活ニュースコモンズが政令市の20市議会を対象に行ったアンケートでは、半数を超える11市議会が、傍聴者の携帯電話端末について「電源を切り、使用を禁止」していると回答。うち5市議会では、議案書や予算案などの資料をウェブサイトで公表しているが、傍聴者が議場内では閲覧できない環境にあることが分かった。

 本会議開会を前に議案書や予算案の公表を行っているとしたのは13市議会。うち横浜、京都、福岡では書面のみによる公表だと回答した。さらに、千葉、川崎、大阪など7市議会は開会前の公表は行っていない。

 通話を禁止した上でスマホ利用を容認している市議会でも、「パソコンやタブレット端末については特段定めていない」(神戸市)、「具体的な禁止規定はなく、他の電子機器と合わせた規定が整理できていない」(札幌市)との声が挙がった。議会運営や住民への情報発信においてデジタル技術の活用が叫ばれる一方、傍聴に必要な資料配布や閲覧においてデジタル活用は十分な議論が進んでいない。

本会議前に議案書・予算案の公表を行なっている市議会(太字は通話を除き、傍聴席におけるスマホ利用を認めている市議会。*は議案書は書面、予算案をウェブ公開)

書面公表横浜 京都 福岡
ウェブ公表札幌 新潟 浜松 神戸
双方公表仙台 さいたま 相模原 静岡 名古屋* 堺
事前公表なし千葉 川崎 大阪 岡山 広島 北九州 熊本

SNS等への投稿制限 「撮影、録音録画等」禁止めぐり解釈改訂

 標準傍聴規則では、傍聴者による撮影や録音、録画などを原則禁じている。今回の改訂では、市議会、町村議会ともに、「撮影、録音、録画等」の禁止にはSNSへの投稿やインターネット配信を含むとの条文解釈を加えており、全国の議会へ通知した。「映像や画像の一部切り取りによって不公平や不公正な情報が流布される懸念がある」(全国町村議会議長会)、「各議会が公式な議事録や映像配信を行っている以上、住民による一面的な発信を制限なく認めることは、公共の福祉に照らして適切ではない」(全国市議会議長会)との判断だ。一方、議長の許可を得た場合には録音録画を認めるとしており、議会モニターや児童生徒による傍聴など、公益性の高い活動については撮影や録音録画を認めるとの解釈だという。

住民に対して録音録画を認めている市議会(報道機関へはいずれも許可、*は許可した先例なしと回答)

原則許可札幌
議長許可を受けて可仙台 川崎 相模原* 大阪 堺 広島 
一律禁止新潟 さいたま 千葉 横浜 静岡 浜松 
名古屋 京都 神戸 岡山 北九州 福岡 熊本

市民の「撮影録音」公益性の議論進まず  一律禁止に慎重な声

 20政令市へのアンケートでは、住民には一律に録音録画を禁じていると回答したのは13市議会。住民による議会モニターや研究調査を目的とした録音録画など、個別に公益性を判断することは行なっておらず、報道機関を除いて一律に禁止している市議会は多い。

 一方、6市議会では、事前に議会運営委員会などで協議し、公益性や必要性を判断した上で議長権限で許可している。ただ、相模原市議会は「相当な公益性が認められない限りは一個人に許可を出すことは極めてまれで、近年許可した例はない」と回答。一方、市民による録音録画を許可している札幌市議会は、「誹謗中傷等に対応していく必要はあるが、市民に対して一律禁止することが良いとは考えていない。今後、どのような規定を設けるべきか内部で話し合っていく」(議会事務局)としている。

 岡山市議会では2022年5月、傍聴席における撮影や録音録画を禁止する原則を設けた。傍聴者が会議中に目をつぶっている特定の市議の画像をSNSに投稿し、「居眠りだ」などと指摘したことを受けた対応だ。撮影、録音録画については「議長が公益上特に必要と認める場合」に限定した。岡山市議会事務局によると、規定は個人に対する誹謗中傷を予防する狙いだが、「当時の投稿が事実であったかどうかは確認していない。投稿内容が、議員個人の(居眠りはしていないという)認識と異なるものであり、不適切な画像利用と判断した」という。傍聴規則で定めた「公益上必要」との定義については、報道機関に限定しており、「明文化した議論は行なっていない」(同議会事務局)という。

 有識者からは「撮影、録音録画の禁止と、誹謗中傷行為を防ぐための規定は別々の問題だ。住民に対して説明責任を果たすためにも、丁寧な議論が必要になる」との声が出ている。

労働闘争や学生運動を背景にした規則「時代に合わない」

 標準傍聴規則を巡っては、これまでも視覚障害者等の白杖や精神障害を理由に傍聴を制限する条項を廃止するといった部分的な見直しがされてきた。しかし、各議長会によると、傍聴者に対する入場規制や禁止事項については、1960〜70年代から表現に大きな変更はなかった。

 全国都道府県議会議長会は今回の改訂で、禁止事項に挙げてきた「はち巻、腕章、たすき、リボン、ゼッケン、ヘルメットの着用」を削除し、「議場に現在する者に対して威勢を示さないこと」と規定。全国市議会議長会の改訂でも、入場を規制してきた「張り紙、ビラ、掲示板、プラカード、旗、のぼりの類を持っている者」との文言は、「会議を妨害し又は他人に迷惑を及ぼすことを疑うに足りる顕著な事情が認められる者」と変更した。全国町村議会議長会でも同様の表現を削った。

 「労働闘争や学生運動などが盛んだった当時は、議場の秩序保持の観点から具体的に定める必要があったとみられる」(全国都道府県議会議長会)、「品位保持を定めた条項であっても、内容表現が現在の社会情勢に合わない」(全国市議会議長会)との理由が改定の背景にある。

 政府の地方制度調査会は2022年12月、地方議員のなり手不足などを背景に「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会」に向けた取り組みを国に答申。女性や若者らが議会に参加しやすくなるような環境や議会運営の整備、住民に対する情報発信に向けたデジタル技術の活用を促す内容だ。答申では、「住民と議会の間の双方向の意思疎通の場」として、議会運営や政策について住民が提言する「議会モニター」「女性模擬議会」「少年議会」などを例示。今後、議会傍聴の間口を広げることで、こうした取り組みが活発化するかどうかが問われそうだ。

傍聴者に氏名住所の記入求める規定は維持

 都道府県、市町村の標準規則では、傍聴者に住所、氏名の記入を求める規定も維持。都道府県、町村の標準規則では、「年齢」の記入のみ削除した。都道府県議会議長会では「氏名住所の記入については、全部削除も検討されたが、議会運営の秩序維持の観点から残した」。町村議会議長会でも「住所氏名を記入してもらうことで傍聴者に一定の自制が期待でき、災害時や急病人への対応に必要だとする声が多かった」という。

 傍聴者に対する住所氏名の記入を巡っては、「傍聴者に過度な自制を求めるべきではない」「個人情報の保護」といった理由で、傍聴者に氏名、住所の記入を求めない自治体も増えている。全国市議会議長会による2023年の実態調査では、全国815市議会のうち、記入を求めていないのは120市議会(前年比36増)。20政令市のうち、住所氏名の記入を求めていないと回答したのは相模原、京都、熊本の3市議会だった。

児童や乳幼児、服装による入場制限は廃止

 改訂された標準規則では、市議会・町村議会ともに原則は傍聴席に入ることができないとしていた「児童及び乳幼児」の規定を廃止。「帽子、外とう、えり巻の類を着用しないこと」「異様な服装をしている者」に対して入場を制限する規定も削除した。小学生を含む若年層や子育て世帯に対する規制をなくし、幅広い世代の傍聴を促す。政令市20市のうち、昨年12月時点で「帽子、外とう、えり巻の類」の着用に議長許可が必要なのは9市議会、着用を禁止しているのは新潟、横浜、堺、岡山、熊本の5市議会だった。

帽子やコート、マフラーの着用を認めている市議会

原則許可札幌 千葉 川崎 相模原 京都 広島
議長許可が必要仙台 さいたま 静岡 浜松 名古屋
大阪 神戸 北九州 福岡
着用不可新潟 横浜 堺 岡山 熊本

標準都道府県議会傍聴規則(最終改正令和6年10月24日;https://www.gichokai.gr.jp/b12.asp
標準市議会傍聴規則(最終改正令和7年2月5日*作成中;https://www.si-gichokai.jp/research/rules/index.html
標準町村議会傍聴規則(最終改正令和6年10月24日;http://www.nactva.gr.jp/html/research/rules.html)
読売新聞オンライン「議場で『居眠り』とSNS中傷、岡山市議会が撮影を原則禁止に 『市民の権利制限』との批判も」(https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220519-OYT1T50236/

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