【転載】The 19th News「連邦法は緊急中絶を保護している。トランプ大統領はその政策を維持するだろうか?」

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バイデン政権は、緊急医療処置及び分娩に関する法律(EMTALA)により、患者の状態を安定させるために必要な治療である場合、病院は中絶を行うことが義務付けられていると明言した。しかし、この政策が今後どうなるのかは不透明だ。

この記事はThe 19thが最初に公開したものです。

Shefali Luthra,The 19th  2025年2月25日)

The 19th Newsは、女性ジャーナリストたちが、2020年、アメリカのテキサス州・オースティンを拠点に立ち上げた非営利の独立系ニュースサイトです。(生活ニュースコモンズでの関連記事はこちら)女性やLGBTQ+の人たちに向け、日々、ジェンダー視点からニュースを伝えています。
生活ニュースコモンズでは、トランプ政権下で女性やLGBTQ+の人たちの権利がどのような状況に置かれているのかを知るため、The 19th Newsから、記事を随時翻訳して掲載する許可を得ました。The 19th News編集部に心より感謝いたします。

医師たちは、医療上の緊急事態において中絶を提供する権利を保護する連邦法が撤回される可能性に備えている。

ドナルド・トランプ大統領は、中絶手術に関する連邦資金の使用を制限するなど、中絶保護を弱める大統領令を発令したが、これまでのところ、緊急医療処置及び分娩に関する法律(EMTALA)には手を付けていない。

バイデン政権は、EMTALAは患者の容態を安定させるために必要な場合に病院が中絶を行うことを義務付けていると明確にした。この指針は各州の中絶禁止に優先し、病院は医学的緊急事態に中絶を提供しなければならないこと、提供しなければ罰金が科せられる可能性があることを意味した。

しかし、この政策の将来は不透明だ。トランプ大統領は連邦政府に対し、中絶の権利を支持する政策を特定し、撤回するよう指示した。トランプ政権が就任以来、掲げてきた公共政策の青写真「プロジェクト2025」の起草者らは、EMTALAが緊急中絶の権利を保護できるという解釈を覆すよう求めている。

「中絶が医学的に必要な場合、EMTALAをどう解釈するかについて具体的にガイドラインを出したことは、バイデン政権による科学と根拠に基づく医療への素晴らしい支持の表明だった」
妊娠12週までの中絶が合法であるノースカロライナ州の産婦人科医で中絶を提供しているジョナス・シュワルツ医師は語った。「それがいま、根底から覆されようとしていると感じる」

トランプ政権当局者は、バイデンのEMTALA政策にどう取り組むか明らかにしていない。ホワイトハウスは、この政策が今後も継続されるのかについて、ノーコメントとした。

保健福祉長官ロバート・F・ケネディ・ジュニアは、EMTALAが、同氏が監督する省庁によって施行されることになっているにもかかわらず、承認公聴会で、「EMTALA の仕組みについてよく知らない」という趣旨の発言をした。EMTALA 違反は、HHS (保健福祉局)の下部組織であるメディケア・メディケイド・サービスセンターに報告され、同センターはそれらの申し立てを調査し、罰金を科すことができる。公的医療を提供するCMSのトップに指名され、事実上この調査を担当することになる、テレビ司会者としても有名な医師のメフメット・オズ博士は中絶に反対する発言をしている。

最も厳しい州の中絶禁止法でさえ、妊婦の命を救うために手術が必要な場合には名目上の例外が認められているが、The 19th がインタビューした医師らは、「何が例外に該当するのかを知るのは非常に難しい」と繰り返し述べている。バイデン政権下で発行されたEMTALAガイドラインは、緊急中絶を必要とする妊婦を治療する病院や医師に一定の安心感を与えたという医師もいる。

「EMTALAがあれば、ない場合よりも適切に患者をケアできる」

2022年6月から2023年9月までほぼ全面的に中絶が禁止されていたウィスコンシン州の救急医、クリストファー・フォード氏は述べた。

何が許可され、何が許可されないかについて医師が混乱していることは、特に中絶を禁止する州で、患者への医療ケアの拒否につながっている。法廷でEMTALA政策に異議を唱えた2州のうちの1つテキサス州では、2人の女性が子宮外妊娠に対して適切なケアを受けられなかったとして苦情を申し立てた。その結果、2人とも卵管を失い、今後妊娠する能力が損なわれた可能性があるという。報道では、病院の緊急治療室が妊娠中の患者を拒否したケースも明らかにされていて、その中には最終的に病院のロビーのトイレで流産した女性もいた。ミズーリ州のある女性は、命の危険がある早期破水があっても緊急中絶を受けることができなかった。

EMTALA政策により、病院は難しい判断を迫られた。EMTALA違反が、州の中絶禁止法に違反した場合の重罪容疑や高額な罰金と比較して、医療上の緊急事態で中絶を提供するのに十分な動機となるかどうか、だ。医師や病院は、患者の状態が悪化して死にそうになったり、不妊症などの回復不可能な身体的損傷を負ったりするまで、判断を保留することになった。

トランプ政権は、新たな指針を出さなくても、間もなく連邦政策を再構築するチャンスを得ることになる。バイデン政権下では、司法省はアイダホ州の中絶禁止法に異議を唱え、その例外規定が狭い(中絶は妊婦の命を救う場合にのみ認められる)ため、EMTALAの保護に違反していると主張した。同州の医師らは、医学的緊急事態に陥った妊婦は、中絶を受けるためにヘリコプターで州外に運ばれなければならなかったと述べた。

この訴訟はまだ進行中であり、トランプ氏の新しい司法省がこの立場を維持するかどうかは不明だ。司法省によるいかなる変更も、新政権がEMTALA政策をどの程度有意義に執行するつもりなのかという点で、さらなる混乱を招く可能性がある。

「医療提供者が刑事罰の脅威にさらされる混乱した状況下で診療を強いられると、結局は患者が追い返され、治療を拒否されることになる」

トランプ新政権に対する複数の訴訟を主導し、バイデンのEMTALA政策を支持する医師らの弁護も法廷で行ってきた団体「デモクラシー・フォワード」の訴訟弁護士、キャリー・フラックスマン氏は述べた。

バイデン政権下でも、連邦法がどの程度の保護を与えているかは不明だったと多くの医師が言う。バイデン政権はEMTALA違反の疑いに関する数十件の報告を受け、調査したが、連邦当局が病院に対し、最高刑である「メディケアからの排除の恐れ」を警告した事例は、報道で見る限り、わずか数件しかなかった。EMTALAは、ごく限られた中絶にのみ適用されているのが現状だ。

「テネシー州では政権交代以前から、多くの医療従事者が状況が明確であるとは感じていなかったと思います」と、テネシー大学の産婦人科医、ニッキ・ザイト医師は言う。テネシー州では、中絶はほぼ完全に違法である。「外部の医療機関が患者を私たちに紹介しようとしたり、質問の電話をしてくるなど、依然として多くの混乱があることが分かります」

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