「生活保護バッシング」「水際作戦」としかいいようのない手口が明らかに 桐生市生活保護めぐる第三者委員会

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群馬県桐生市の生活保護行政で多数の人権侵害事例が明らかになったよ

群馬県桐生市で生活保護費を満額支給しないなど違法な取り扱いが横行していた問題で3月14日、「桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」が開かれました。会議は8回目で、この日をもって終了。2週間後の28日に、委員会が荒木恵司・桐生市長に報告書を手交、公表する予定です。

桐生市の生活保護をめぐってはこれまで、たくさんの“違法・不適切対応”が指摘されてきました。

・1日千円の窓口分割支給
・月内に保護費満額を支給しない対応
・民間団体による厳しい金銭管理
・認印の大量保管と不正押印
・実際には存在しない仕送りがあることを理由とした申請却下
・施設入所による廃止
・被保護人数が10年で半減

14日の第三者委員会では、傍聴者に「第三者委員会が行った事実聴取結果」と「第三者委員会へ寄せられた情報提供の概要」が資料として配付されました。

事実聴取結果は「生活保護利用者」「金銭管理を行っていた団体(*1)」「社会福祉施設」「群馬県地域生活定着支援センター」「現職職員」「退職職員」からなります。

 *1……桐生市では生活保護利用者に対し、市社会福祉協議会、NPOなど3団体が金銭管理を実施。通帳や印鑑を預かった上で、金銭管理の名目の下、保護費の一部しか本人に渡さないなどの対応を取っていた。団体は「利用者本人の同意を得て契約した」としている。

元幹部職員 利用者を「身勝手」「反社会的」

このうち、「退職職員」は2人の幹部職員からの聴取結果でした。「生活保護世帯数が急減したのは生活保護の申請権の侵害があったのでは?」と問われ、2人とも否定。1人は「身勝手な考えをする人もおり、中にはケースワーカー(以下、CW)から悪いところばかりを指摘されて追い返されたと受け取った相談者がいた」という認識を示しました。

現役職員の62%が「不適切な対応があった」と答えているのに対し、退職幹部は「申請希望者を排除する対応があった」という認識は示さず、警察OBの職員に関しても「時に大きな声を出す者もいたものの、それまでの職務経歴を生かして対応してくれていた」としました。

他市と比べ、高齢世帯で保護世帯数が急減した理由については、「年金台帳作成を早期に手がけて(年金の)漏給等への対応をした」「自宅訪問をしっかり行ったことで、不適切な申告をしても発見されるという情報が周囲に広がり、ある種の反社会的な者が桐生市で生活保護申請をすることが減っていた」という認識が示されました。

こうした認識について、桐生市生活保護違法事件全国調査団の稲葉剛さんは「退職幹部の発言は、生活保護申請者を『身勝手』『反社会的』などと決めつけるもので、生活保護バッシングそのもの。様々な違法行為が積み重なって半減したというのが本当のところだろう。第三者委員会の報告書では、そこまでの解明を望みたい」と話しました。

厚労省「要保護者の権利侵害防止を」

厚生労働省は2月、桐生市に対する監査を実施。その結果を踏まえ、3月12日に開かれた厚労省社会・援護局関係主管課長会議では、「満額不支給や仕送り収入の不適切な認定はあってはならない」と言及。今年度の国の監査の重点事項の最初に「要保護者に対する権利侵害の防止について」が掲げられました。

桐生市のこれまでの生活保護行政は「要保護者の権利侵害」にあたるといえます。

第三者委員会への情報提供100件

桐生市の第三者委員会に寄せられた生活保護の不適切対応に関する情報提供は1月6日〜24日に100件超を数えました。時期的には2018年〜2024年3月が66件と最も多く、次いで2013年〜2017年が25件、第三者調査委員会が立ち上がった2024年4月以降も6件ありました。

内容別にみると、「相談・申請時」が49件、「受給中のCWの指導」38件、「生活保護停止・廃止」7件など。具体的な職員の名前を挙げた情報も21件ありました。

【主な事例】を紹介します。

生活保護業務に関する第三者調査委員会(右側4人が委員)=群馬県桐生市

勝手に冷蔵庫を開け「どんな生活してるのか」

・2週間に一度、生まれたばかりの子どもを連れて窓口に出向き、家計簿を提出して、保護費を取りに行っていた。家計簿が一円でも合わないと怒鳴られた。眼鏡を購入した際に、「これは税金ですよ」と怒鳴られた。CWが家を訪問した際、勝手に冷蔵庫を開け、「どんな生活しているんですか」と言われたほか、トイレや風呂もチェックし、鼻で笑われるような対応を受けた。=利用者・家族等

・障害児を抱えるひとり親。障害児の介助等で定職に就けず、自分も精神障害があることをCWに話した。児童手当や障害者手当をやりくりして生活している状況を伝えると、CWは笑いながら、働いて得る収入がないことを馬鹿にする態度をとった。ひたすら、すみません、と謝った。=利用者・家族等

子の学生時代のバイト収入を差し引き

・金銭管理団体との契約を同居の母がした時、保護を受けて以降の一部未払いの保護費が総額で30万円を超えていた。その際、私が学生時代のアルバイト収入が未申告だったとして10万円が差し引かれ、それ以降も毎月保護費から一定額を返還させられた。

・長女からの仕送り収入が月額1万8000円、妹からの現物援助が月額5000円あるとして、毎月合計2万3000円が引かれ、生活扶助費は4万3000円ほどだった。しかし、実際にはこのような仕送りや援助はない。仕送りや援助があるか私に確認があったこともない。長女は仕送りする経済的余裕がなく、交流もない。=利用者・家族等

「フードバンクなら紹介する」

・過去に生活保護を利用していたが、持病が悪化して収入がなくなり、再び生活保護の申請をするために窓口に出向いた。しかし、職員から「何で働かない」「保護が大変なのは知っているだろう」「フードバンクなら紹介する」といわれるだけで申請に至らなかった。その後、病院に入院となり、病院が自分の代わりに保護申請手続をした。来院した職員は「入院する前に電話一つできないのか」と私を責めた。=利用者・家族等

・税滞納のため自宅を公売されホームレスになった人が、生活保護の申請に出向いたが、「住所がないと申請できない」「施設に入所して、そこで保護申請をするように」として、他市所在の施設見学を案内された。=福祉関係者

生理用品のレシートもチェック

・週に一度、レシートをつけて家計簿をCWに報告していた。生理用品の購入を知られるのは嫌だったし、レシートのない自販機で飲み物を買うことさえなじられ、苦痛だった。=利用者・家族等

・保護を受けようとしたとき、子どもを児童相談所に預けることになると言われたが、児童相談所にその話をすると桐生市役所がおかしいと言っていた。CWも一方的に電話を切ったり、生活保護を受けたいなら他市に転居するよう言うなどおかしかった。=利用者・家族等

・1日1000円の分割支給であり、社会福祉協議会の金銭管理を受けていた。CWからは、レシートを週に一度持参すること、市役所に来るときはYシャツにネクタイ、革靴で来るようにと言われていた。さらに、ひらがなや漢字の書き取り練習をさせられた。=利用者・家族等

「卵が4個も入っている」→申請却下

・申請がなかなか出させてもらえず、申請を受理してもらった後の自宅訪問の際、CWが勝手に冷蔵庫を開けて、「卵が4個も入っている」と言った。その後申請が却下された。=利用者・家族等

・母子世帯。県外で生活保護を受けていた。桐生市へ転居して生活保護申請をしたが、CWからどうして桐生に来たのかと執拗に問われ、前のところに戻るよう圧力をかけられた。さらに家族全員の顔が見たいと言われ、子ども全員を窓口に連れて行くことになった。=利用者・家族等

・生活保護利用中の世帯の夫が逮捕されたことをきっかけに、連絡もなく保護が打ち切られた。同居の配偶者が生活出来ない状況になった。警察官とともに保護の再開を要請したが、「悪いことをした人の家族は保護を受けられない」という理由でどうにもならなかった。その後も、妻にCWが「働ける」「税金の無駄」などと恫喝をしたため、妻の手が震え始めるほどになり、追い返された。警察署の協力を得て、他市へ転居し、保護を申請して受理された。=福祉関係者

「生保とるなら、児相に子どもを預ける」

・子ども4人を抱えた母親の身であったが、「生活保護を受けるのは恥だ」「自立するように」など保護を受けさせたくないという姿勢をCWから示された。保護を受けているとき、週に1度、ハローワークに通い、保護課に出向いて、保護費を分割支給された。しかも週に1万円しかもらえず、ノートにレシートを貼り、所持金と照らして1円でも足りないとCWから問い詰められた。保護を受けて半年ほどで、半強制的に保護を打ち切られることになった。その際、CWから「次に生活保護を受けるなら、今回よりもっと厳しくなる」「子どもを養えないということだから、児童相談所に子どもを預ける」などと暴言を受けた。=利用者・家族等

市役所職員からも情報提供

市役所職員からの情報提供も6件ありました。

・生活保護利用者について、「ろくでもねぇ」「あいつらはくず」と言ってはばからない職員がいた。

・特定の職員が怒鳴っている声がよく聞こえてきた。

・ケース会議のために保護課の職員を呼ぼうとしたが、こちらの課長から福祉部長に話をするように言われた。部長の権力が強すぎたので職員が大変だったと思う。

こうした情報提供に対し、第三者委員会の吉野晶委員長は「100件という数にまず驚いた。個人情報につながる記載を除いたため、情報の解像度としてはここまでにせざるを得ない。委員会としては真偽を確認するまでには至っていないが、実態の一端は明らかになったと思う」としました。副委員長の小竹裕人さんは兵庫県の公益通報者保護法違反の事例を念頭に、「市職員の情報提供者が誰なのかを詮索したり、犯人捜しをしたりすることは決してあってはならない」と釘を刺しました。

水際作戦が行われていたというしかない

弁護士や支援者らでつくる全国調査団は問題の徹底解明と再発防止を求めています。

第三者委員会の終了を受けて、記者会見を開いた全国調査団=群馬県桐生市

メンバーの一人で生活保護問題対策全国会議事務局次長の田川英信さんは、「(情報提供の)100の事例から、桐生市では『水際作戦』が行われていたと言うしかない」と断じました。その上で第三者委員会に対し、「なぜ保護世帯が半減したのかについて、水際作戦をしたからだということを認定してほしい。桐生市独特の決裁慣行とはどういうことかを解明してほしい。警察官OBを生活保護利用者の面接に必ず同席させたり、就労支援専門員の任に就けたりした経緯について明らかにしてほしい。2000本近いハンコの使用について明らかにしてほしい」と要請しました。

虐待ともいえる人権侵害

調査団のメンバーで支援者・ライターの小林美穂子さんは、次のように話しました。

「過酷な水際作戦が行われたということは歴然としているのに、桐生市は認めない。根本的な原因が全く解明されないで腐った根っこをそのままにして水を与えたり、葉っぱを磨いたりしているようにしかみえない。組織全体に生活困窮者を厄介もの、二級市民とみる傾向がある。厳しく管理して、更生すべき対象とみていた。相手を自分と同じ人間とみていなかった。このままの幕引きだと虐待とも言える人権侵害の数々が許されることになってしまう。全容を解明し、市民の信頼を取り戻せるような桐生市になってほしいと考えています」

調査団の団長で法学者の井上英夫さんは「これまで北九州、札幌で生活保護行政について調査をしてきた。北九州市は最初、開き直ったが、我々の交渉やマスコミの報道で随分改善された。桐生市もチェックと検証が大事だ」と話し、第三者委員会がフォローアップ体制を作って毎年、改善点や再発防止策をチェックすることや、メディアによる検証の継続を求めました。

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