「さべつはゆるしません」「せんそうはんたい」 二つの旗の下で戦い抜いた10年 川崎のハルモニの作文と絵と写真の展示会

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差別と戦争はつながっている。在日1世、2世のハルモニたちが作文に残した「実感」

「さべつはゆるしません」

「せんそうはんたい」

ひらがなで書かれたシンプルな二つの旗の下で、ハルモニ(おばあちゃん)たちは戦い抜いた——川崎市川崎区の東海道かわさき宿交流館で「あれから10年 ハルモニの活躍を記憶に残す かわさきのハルモニの作文と絵と写真の展示会」が開かれている。7月13日まで。

展示されているのは、川崎市川崎区の在日コリアン集住地域・桜本の在日1世、2世のハルモニたちによる作文や絵などと、ハルモニたちの「活躍」の写真だ。

ハルモニたちの多くは、10代や20代で日本にわたってきて、日本語を学ぶ機会がないまま働き詰めの生活だった。桜本のふれあい館ではハルモニたちを対象に、識字学級を開いてきた。いま、文字だけでなく、絵やビデオ、劇で思いを発信する場である「ウリマダン」に発展している。ほかにも、在日高齢者の出会いとふれあいを深める「トラヂの会」が週1回開かれている。展示会は、これら二つの会を中心に10年の歩みをたどった。

戦争反対800mデモ

はじまりは2015年9月、安保法制に反対する若者たちがいることをニュースで知ったハルモニたちが「戦争反対桜本商店街800mデモ」を行った。杖をつきながら歩いたり、若い人に車椅子を押してもらったり。「せんそうはんたい」の横断幕はこのときに掲げられた。

展示会では横断幕とともに、戦中、戦後の記憶を綴ったハルモニたちの作文も展示されている。

せんそうはんたい むかしのちようせんではにほんのけいさつというとみんなふるえあがっていました。じぶんたちはむぎ、あわをたべ、おこめはみんなにほんのへいたいさんにもっていかれました。しんちゅうのはしやスプーンももっていかれました。おこめをすこしうちのにわにうめてかくしたことがみつかりアボジがつれていかれてあしに松の木をはさんですわらせられたとききました」

かいだし せんごがたいへんでした。たべものがなくて買いだしにいってもかえないときがあるし、うんよくかえてもかえりにおまわりさんにとられた。つらかった。日本の人はきものをもっていってお米ととりかえることができたけど、わたしたちはそれができない。おもいだしてかくこともつらいです」

押し寄せたヘイトデモ

デモは和やかに成功裏に終わったが、ヘイトデモが押し寄せた。同年11月、極右団体が桜本を襲撃し「日本浄化ヘイトデモ」を強行。対抗する市民団体によるカウンターデモも行われた。こうした状況下でハルモニが掲げたのが「さべつはゆるしません」という旗と、「さべつはやめにしてなかよくしましょう」という横断幕だ。

このときの作文。

ヘイトスピーチやだね‼ 口にだしたくない話をかくのもやだ。めだつためにもわざわざヘイトスピーチをおこして人をいらいらさして、むねをいたくさせるので、それであなたたちはまんぞくか‼ あとからはそうしないで桜本にきていっしょに話しながら仲よくしましょうね‼」

ヘイトスピーチをする人へ いやなことばを言う人自分の心もいいきもちはしないでしょう。いつまでも心がとがめるでしょう。いわれた方のきもちになってみてください。心がいたむでしょう。今まで私たちはめいわくひとつかけないでくらしてきたし、今さらいくところはありません。ほうりつ(*1)ができたのでじぶんのきもちをかえていいほうこうにむけたほうがいいとおもいます。もっとほかのいいことをかんがえてください」

*1ヘイトスピーチ解消法、2016年6月3日施行

川崎市は人権尊重条例を制定

ハルモニたちの思いも汲んで、川崎市は2019年12月「差別のない人権尊重のまちづくり条例」を制定した。

第12条にこうある。

第12条 何人も、市の区域内の道路、公園、広場その他の公共の場所において、拡声機(携帯用のものを含む。)を使用し、看板、プラカードその他これらに類する物を掲示し、又はビラ、パンフレットその他これらに類する物を配布することにより、本邦の域外にある国又は地域を特定し、当該国又は地域の出身であることを理由として、次に掲げる本邦外出身者に対する不当な差別的言動を行い、又は行わせてはならない。
(1) 本邦外出身者(法第2条に規定する本邦外出身者をいう。以下同じ。)をその居住する地域から退去させることを煽動し、又は告知するもの
(2) 本邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの
(3)本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの

これらの言動を市内の公共の場所において、拡声機を用いる等の方法により市の警告を無視して強行した場合、罰則が科される。

2025年の参院選では、「外国人は優遇されている」など、事実に基づかない街頭演説が繰り広げられている。

川崎市はホームページに12条を再掲し、「選挙運動であっても、公共の場所で本邦外出身者を退去させることや危害を加えることを煽動すれば条例違反」との見解を示した。

映画にも出演 活躍は全国へ

条例制定の翌2020年の春、新型コロナウイルスが全世界に広がった。その後の3年間、ハルモニたちはマスクを着用して細々と集まりを続け、絵や作文で表現を続けた。

2023年にはコロナ禍で撮影されたハルモニたちの様子をまとめたドキュメンタリー映画「アリランラプソディー」(金聖雄監督)が完成。ハルモニたちは「女優」デビューを果たし、全国各地に舞台あいさつに赴いた。京都の在日集住地区「ウトロ」のハルモニたちとも、映画上映を機に意気投合し、交流が続いている。

「差別は戦争につながる」

トラヂの会で体操を披露するハルモニたち=川崎市川崎区

最高齢94歳の石日分さんはハキハキと語った。1931年長崎県諫早市生まれ。家庭の都合で何度も引っ越し、高等小学校1年の時に日本の敗戦により解放。戦後も結婚、離婚、再婚を経て転居を重ね、41歳で川崎にやってきた。

「差別を許さない、戦争を許さない。みんなで力を合わせてやってきた。集まると元気が出て平和がおとずれる。反対に差別は戦争につながる。子どもたちを戦争に巻き込みたくない一心で活動してきた。多くの人にわかってもらいたい」。

「アリラン・ラプソディ」の舞台あいさつを務めた朴根恵さんは「今、ここにいるハルモニたちは2世、3世。1世はほとんど亡くなった。その声を未来につながなければいけないと思う。十五年戦争、朝鮮戦争を超えて、何度も海をわたって、私たちは今、こういう場所に集っている。日本人も韓国人も一緒になって居場所を作ってきた。私たちがいなくなっても、この展示は残る」と話した。

展示は7月13日17時まで。入場無料。

問い合わせは社会福祉法人青丘社 fureaikan@seikyu-sha.com

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