インボイス導入から2年、特例措置の廃止まであと1年の節目を迎え、「STOP!インボイス10.1デモ」が10月1日、衆議院第二議員会館前で開かれました。雨が降る中、野党の国会議員10人を含む約80人が参加。「今こそ決断、インボイス廃止」のコールを繰り返しました。
インボイス制度とは適格請求書等保存方式。2023年10月に導入されました。年間課税売上額が1000万円以下の免税事業者との取引にも消費税が課税され、その分を「免税事業者」「課税事業者」「消費者」の誰かが負うことになります。しわ寄せは弱い方に行きやすく、すでに多くのフリーランスや零細事業者が取引価格の値下げや取引からの排除を経験しています。
現在、2つの経過措置が取られています。「2割特例」とは、インボイス導入で新たに課税事業者になった事業主に限り、消費税の納税額を売上税額の2割に軽減できる制度。「8割控除」とは、課税事業者が免税事業者から仕入れた場合、仕入れ税額の8割を控除できるという制度。どちらも2026年9月30日で終了します(8割控除は5割控除に移行し、2029年10月に廃止)。
インボイス制度を考えるフリーランスの会事務局が今年3月から4月に行った「1万人のインボイス実態調査」によると、経過的措置終了後の事業の見通しについて、5割が「不安」とし、「廃業・転業を視野にいれている」も14.7%にのぼりました。
道理も哲学もない税制に辟易
インボイス制度を考えるフリーランスの会 小泉なつみさん

1年後には2割特例と8割控除が終了します。現在、2割特例の事業者はインボイス登録事業者の約4割、81万者と言われています。1年後にはこの81万者が確実な増税となります。8割控除が5割控除に引き上げられることで、免税事業者に発注している企業の負担が増します。免税事業者にインボイスの登録を迫るか、または値下げをお願いするか、自分たちが作っているサービスや商品の値上げをするか、それができなければ自社で負担を被るしかないという非常に難しい選択を迫られているのが現状です。
よく「お前らは納税をしたくないんじゃないのか」と言われるんですね。そうではありません。そもそも納税しています。私たちは納税したくないのではありません。インボイス制度には納税に値するような丁寧な説明も、道理もないと感じているので反対し続けています。
私はフリーランスなんですが、商売の邪魔になることはしたくありません。しかし、インボイスはこれまで何の問題もなかった取引先との関係を硬直させ、経理を死ぬほど面倒にし、売り上げ300万円のフリーランスから10万円もの消費税を持って行っている。2年前までゼロ円だったところからの10万円です。こんな増税を納得出来ないまま受け入れられません。
インボイス導入決定から10年が経とうとしていますが、唯一の立法根拠だった複数税率の下での適正な課税にあたらない不適正な事案の件数すら政府は示せていません。
最近ではコンテンツ庁を作って日本文化を守るというような話も出てきています。そうやって自国の産業を守る、地域創生だ、と言いながら、インボイスによって経済の下支えをしている中小零細事業者を追い込んでいることには目をつぶる。問題なのは自公政権のそういうところじゃないですか? インボイスは世界で導入されているといいながら、OECD加盟国で唯一、納税者の権利憲章すら制定できない現実には目を背け、赤字の店からも苛烈に消費税を取り立てる。物価高対策といいながら、実質的な増税施策であるインボイスを強行する。自民党政治のそういった欺瞞や矛盾に満ちた道理も哲学もない姿勢に私たちは辟易としています。そもそも裏金を作っている人たちがインボイス導入なんて100万年早いです。とっとと国会を開いてインボイスを廃止して、安心して商売をさせろ、稼がせろ。
年収400万円の職人に2割特例でも8万円の課税
東京土建 御崎誠人さん

いま、中小零細の事業者が建設の現場を担っています。一人親方と言われるフリーランスで保っているのがいまの建設業の実態です。しかしながら、建設業はキツい、汚い、危険と言われる歴史が長かったこともあり、高齢化が進んでいます。2020年の国勢調査で、東京の25歳未満の大工さんは780人しかいません。全国でも1万1000人。これでいまのインフラ、居住環境を維持できるわけがないんです。国の方は担い手を保護するため、建設業法の改正であるとか、下請けも安い見積もりを書いてはいけませんよ、というようなルールを作っていただいているところです。ところがこれに冷や水を浴びせるのがインボイスです。
建設の職人さんの平均年収は400万円強です。インボイスの課税額は2割特例でも8万円。こんな負担には耐えられないという声が仲間から大きく広がっています。重層下請け構造で、末端で働いている一人親方に受注環境を与える一次業者、二次業者、ここのところがいま8割控除でなんとか仕事を与えている。5割控除となれば、一人親方に払う金額を圧縮しなければいけない。建設業をつぶす税制がインボイスだと思っている。
もう1点、インボイス導入の理由は段階税率にあるといわれます。でもその以前から、段階税率は記帳でやってきた。納税者をバカにしているのか。記帳を信用していないということなんですね。そうした制度上の矛盾、怒りをみなさんと共有し、廃止を訴えたいと思います。
全員からチャンスと収入を10%奪う
漫画家 田辺崇さん

今年の2月に約3年半続いた連載が終了しました。それから今までおよそ400〜500ページぐらい、新連載のネームを描いて全部ボツです。打ち合わせをする出版社の人にはお給料が支払われていますが、私はその間、無給です。フリーランスと一般企業の取引にはそういうことが絶えず起こっていると思うんです。そういう不均衡を是正しようという法律を作る動きがある中で、インボイス制度が始まってしまった。インボイスは仕事仲間の誰でもいいからとにかく10%持ってこいという制度だと思うんです。誰が持ってくるかは民間で決めていいよと、本当なら国が決めなければいけないことを、こっちに全部押しつける。だから僕たちはみんな苦しんで、お互いの顔色を見ながら仕事をしています。国はコンテンツ産業に力を入れたいというが、全員からチャンスと収入を10%奪うのがインボイス制度だと思っています。
2割特例を使っても手取りが減る
酪農家 金谷雅史さん

千葉で酪農やっています。酪農へルパーさんは年収1000万円以下の個人事業でやっている方が多い。その方々がインボイスに登録してくれといわれて登録した。確定申告を実際やってみると、2割特例を使っても手取りが減ってしまう。酪農状況が厳しい中、消費税分を価格転嫁させてくれとは言えない。たとえ言えても取引先と折り合わず、消費税分をもらえていない人が多い。今までの手取りの中から消費税を捻出している。実際、申告した人も登録を取り消して免税事業者に戻している。弱い者いじめの税制だと思った。取れるところはほかにある。インボイス制度は廃止一択です。
フリーランス軽視が甚だしい
出版業界で働くフリーランスの労働組合「出版ネッツ」執行委員長 樋口聡さん

出版産業は2020年代に入り、コンテンツ産業へと大きく変容を遂げてきていると思います。コンテンツ産業においては、多くのクリエイティブワークをフリーランスが担っています。しかしその報酬は1990年代から全く上がっていない。出版ネッツは2020年から毎年「フリーランスの春闘宣言」を発出して、報酬を上げてほしいと言い続けていますが、実際の報酬アップにつながっていない。そこに物価高騰が追い打ちをかけています。さらに発注者と受注者の間で消費税を押しつけ合うインボイスが導入された。地獄絵図のような制度です。誰も幸せにしない、誰も豊かにしない制度をなんとしても廃止してほしい。昨年11月にフリーランス法がスタートしました。受注者を公正取引の観点から保護しようという法律です。早速、出版大手の小学館と講談社が違反して勧告を受けました。小学館のケースは被害者が190名を超える悪質なもので、フリーランス軽視が甚だしい物です。コンテンツ産業で働く人も生身の労働者です。労働法制で守るべきだと考えています。
もう一つ業界を揺るがしているのがAIです。AIの使用が増えていますが、額に汗した労働者の著作権を侵害することがあってはなりません。この点でもガイドラインの作成が必要です。フリーランスが安穏とできた時代はこれまでもありませんでした。今は、2020年代は本当につらい。引き続きインボイス廃止を、みなさんと協力してがんばっていきたい。
剥奪される尊厳を見ようとしない政治家
コラムニスト 和田靜香さん

フリーランスでライターをしているがインボイスには登録していません。私のライターの友達も誰も登録はしていなくて、ぶっちゃけると登録するかしないか以前に、みんな仕事をしても食べていけないので、最低賃金でバイトをしています。インボイスうんぬんの前に最賃上げろと、私はすごく怒っています。食っていけないぞという状況なのに国民健康保険料もバカみたいに高くて、これを払うために私は病気になって死ぬわ、と思うくらいで、国会議員の方、さっきいらしていたけど、「お代官さま、お許しくだせえ」と泣きたいぐらいの気持ちです。2月の衆議院財務金融委員会で、共産党の田村智子さんが「インボイス導入後に8割減額の経過措置が取られていても廃業が相次いでいることをどう考えているか」と切実な声で質問したんですね。そのとき、加藤勝信財務大臣は「国税当局は納税者から一括納付が困難と相談を受けた場合には納税者の置かれた状況に配慮し……」とテープが回っているような声で答えていて、この人たちに何か言ってもだめなんだなと思ったのを覚えています。最近の自民党の総裁選などのゴタゴタを見ていても、お金がないとか生活に困るとか物質的に困るというだけでなく、私たちが剥奪される尊厳とか、希望が全くないとか、不安の大きさとか、それが全然政治家に伝わっていない。見たくないというか見ようとしない。おまえらなんか知らないというのを凄く感じます。私は非常に腹が立っていてヘロヘロになっています。とにかく怒っています。インボイス絶対反対です。
コンテンツ産業を支えるため廃止を
日本音楽家ユニオン代表運営委員 土屋学さん

国の税収は過去最高なんです。税収の2番目に占めるのが消費税。消費税が税収を上げている。政治家のみなさん、お金がほくほくしているんですね。そして私たちのコンテンツ産業、アニメや音楽や声優さん、輸出の2位を占めるんですね。政府は日本からコンテンツ産業を輸出すると、業界団体に明言しましたよ。ところで、アニメは主人公だけでコンテンツは成り立ちません。脇役が必要です。音楽ももちろん、後ろではいっぱいの音楽家が演奏しています。それぞれに高い健康保険、高い住民税がのしかかってきている。インボイスの経過措置はあと1年で終わる。そのころには消費税率も上がっているかもしれない。政治家にぜひともインボイスを廃止してもらいたい。なんとかコンテンツ産業をみんなで支えていきましょう。
特例なくなると零細事業者の税負担が急増
インボイス制度の廃止を求める税理士の会 菊池純さん

私たち税理士の会は、昨年の衆院選、今年の参院選で、インボイス制度の廃止に賛成か反対かを各政党にアンケートしました。7政党より回答があり、そのうち6党(立憲民主党、国民民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、参政党)が、インボイス制度を廃止すべきという回答でした。自民党は制度存続の回答でした。この結果をSNSで公表したところ、インボイス廃止とした政党が躍進し、衆参両院で与党が過半数割れになりました。このことを踏まえて、インボイス制度廃止は民意と確信しています。
2割特例と8割控除は来年の9月30日で終わります。2割特例がなくなると、本来免税事業者であった零細事業者の税負担が急増します。また、8割控除がなくなると発注者の税負担が急増するため、仕入れ先に課税事業者への登録要請が強まります。その前になんとしてもインボイス制度を廃止しなくてはなりません。そこで税理士の会では各政党に、インボイス制度廃止法案の提出と制定をお願いしてきました。インボイス制度は臨時国会で廃止を決議すれば、法人は翌月の申告から、個人は2025年の確定申告から廃止が可能です。インボイス廃止による税額の減少は2480億円です。その金額なら、補正予算を組まなくても廃止は可能です。インボイスを廃止して帳簿方式に戻すだけで年間4兆円分の事務作業が不要になります。世界の164カ国で消費税が導入されていますが、日本は世界で唯一、帳簿方式を選択しています。ヨーロッパ諸国でインボイスが導入された理由は、信頼できる正確な帳簿が整備されていないからです。帳簿がないからインボイスに頼るしかない。ところが日本は江戸時代から中小零細事業者も帳簿を作っています。帳簿さえ作っていればインボイスは必要ないし、むしろ余計な事務負担になります。帳簿があれば適正な課税は可能です。いまこそみんなの力でインボイス制度を廃止したいと思います。
東京都も滞納した消費税 なぜ我々に払わせるのか
文筆家 栗田隆子さん

今日のこの雨は我々の涙だなと思いますが、涙だと足りないかなと、ずぶ濡れになるぐらいでないと間に合わないと思います。
私自身は文筆の仕事をしていて、インボイス導入からぬるっと原稿料が下げられるとか、実害が起きております。私自身はインボイスの登録事業者にはならなかったんですけど、登録事業者であろうとなかろうと自動的に原稿料が下がっている。その中で転嫁をしなさいといわれているんですが、どんどん送っていく、カードを引き合うようなものです。最後私たちに消費税というババが来ちゃったら、転嫁する相手がいない。カードがとどまって払うしかなくなる。貯金を切り崩すとかいうことが起こる。
価格交渉をすればいいじゃないかという人がいるけど、私たちフリーランスで、労使交渉できる立場じゃないんですよ。契約があっても使用者を交渉の場に立たせるのが大変。限りなく偽装フリーランスのように、もともとは雇用の枠内でやっていたものを、業務委託のような形でやっている。こんなところで価格交渉なんてできるわけがないという現実的な問題がある。
インボイスを推し進める人は転嫁すればいい、交渉すればいいというが、安倍首相が以前「パート労働者月給25万円」と言っていたぐらい、フリーランスのことをなんもわかっていない。
消費税って滞納率も高い税金です。私たち計算のプロでもないのに、そんなの払えるわけがないじゃないかと思っていた矢先に、東京都が都営住宅の消費税を21年間、払っていなかったことがわかった。そのうちの4年分は払ったけど、17年分は時効になったと聞いて、「何それ?」と。東京都が払えないものを、なぜ私たちに払わせるのか。
フリーランスの立場としても個人としても、ただでさえ物価高なのに、やってられるか。インボイス反対、消費税廃止、2割特例なくすなんてとんでもない、と言い続けたいと思います。