安倍元首相殺害事件の裁判開始 被告側「宗教的虐待」訴える

記者名:

安倍元首相殺害は3年以上前の事件だけど、ようやく裁判が始まるんだね

 2022年7月に奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、参院選の応援演説中だった安部晋三元首相が殺害された事件の初公判(田中伸二裁判長)が10月28日に奈良地裁で開かれた。手製銃で殺害したとして、殺人罪などに問われている山上徹也被告(45)が出廷。検察の冒頭陳述が行われ、山上被告が殺人罪などの起訴内容を認めた。弁護人は山上被告の母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者で、山上被告が虐待的な宗教被害を受けたことが事件の背景にあるとして、量刑などについて争う構えだ。

シカが鳴く公園で傍聴抽選バンドを配布

 初公判は予定されていた一般傍聴枠の32席に対して傍聴希望者は727人に上り、倍率は22.7倍にもなった。傍聴の抽選で利用する番号の書かれたリストバンドの装着は、8時半〜9時半に奈良地裁から1km離れた奈良公園の中で実施された。公園に着くとシカがあちこちにいて、キューキューと鳴いていた。赤いコーンがずらりと並んだ会場にメディア関係者がすでにたくさん待機していた。

抽選番号が書かれたリストバンド。手首から外すと無効になると言われる=奈良、2025年10月28日、撮影:吉永磨美

 裁判所のスタッフによって希望者一人一人の手首にバンドが結束された。裁判所のホームページで11時45分を目処に当選を確認する仕組みだ。公判自体は14時からで、リストバンド配布はその5時間前だった。列に並ぶにしても、配布時間が早朝の1時間に限られるため、傍聴の機会を得られるのは前日現地で宿泊する人、もしくは近郊在住の人に限られてしまう懸念がある。傍聴人が大挙して詰めかけることを予想した対応とはいえ異例だ。初公判に限らず、10月29日も同様の実施。30日まで同じ方式で傍聴席の抽選が実施されるという。

奈良地裁から1キロ先にある奈良公園内にある抽選リストの配布会場。配布を待つ傍聴希望者が列を作るそばで、シカが座ったり、歩き回ったりしていた=奈良、2025年10月28日、撮影:岡本有佳

被告側「手製銃は銃の要件満たさない」

 奈良地裁前は早朝から大勢の報道陣や市民が詰めかけた。有名観光地の東大寺や春日大社近くでもある現場は、外国人などの観光客や修学旅行生がひっきりなしに往来する。正午ごろから警察の警備が始まり、13時過ぎには人々の往来を止める規制を開始。ヘリコプターが上空を飛び、物々しい雰囲気の中、13時15分に山上被告を乗せた車両が裁判所に入った。弁護団などによると、無事14時から開廷し、検察の起訴状朗読後の罪状認否で、山上被告は起訴内容を認めたという。

初公判を迎えた奈良地裁前は終日報道陣でごった返した=奈良、2025年10月28日、撮影:吉永磨美

 弁護団や報道によると、山上被告は殺人罪や銃刀法違反のほか、火薬類取締法違反、建造物損壊罪でも起訴されている。山上被告は、2020年12月から事件までの間、自宅で手製銃6丁を製造したとされ、武器等製造法違反罪などについても罪を問われている。被告側は殺人罪については争わず、武器製造法違反罪について、法律で問われる銃としての要件を満たしていないと主張し、銃刀法違反のうち「発射罪」についても山上被告の手製銃は「砲」ではないとして、争う姿勢を見せているという。

山上徹也被告を乗せた車両(2台目)が奈良地裁に入る=奈良、2025年10月28日、撮影:岡本有佳

緊張して「頬に手を当てていた」

公判終了後、弁護団の松本恒平弁護士と藤本卓司弁護士が報道陣の取材に応じた。

 弁護団によると、山上被告の公判の前後の印象は「彼なりに緊張したようであった。しかし、淡々とした口調はいつも通りで、終わった後はホッとした様子だった」。

 「頬に手を当てていたのがややふてくされた感じがした」との記者からの質問には、「傍聴者の視線が集中していることに緊張したようで、思わず頬に手を当てていたと本人が語っていた。本人としてはこの裁判にしっかり臨もうとは思っているだろう」と話した。

 「結果的に政治的な評価が生じたとも言えるのではないか」との問いに対しては、「刑事事件は彼の認識の範囲で問うものである。事件以降の社会的、政治的動きについてはこの裁判で言及することはない」。

閉廷後に山上被告との接見を済ませて、報道陣の取材に応じる被告の弁護人=奈良、2025年10月28日、撮影:吉永磨美撮影

「宗教的虐待」という未知の領域を立証する

 今後の弁護方針については次のように話した。

 「彼(山上被告)の内心、内面についてはこの裁判の中で彼の口から語ってもらおうと思っている。今後の裁判は、弁護側、検察側、それぞれの立証をしながら、被告の弁護をしていきたい。宗教的虐待とはどういうものなのか、未知の領域でもあるが、これから立証して彼の防御をしたい。毎日相当思い悩みながら過ごすだろうと思う」

 当裁判の裁判期日は予備日を含めて計18回の日程が組まれ、11月18日に結審、1月21日に判決が出る予定だ。

(岡本有佳、吉永磨美)


 安倍元首相の殺害事件から3年以上経ちました。起訴から2年10カ月かけて公判前整理手続きが行われ、初公判が開かれました。生活ニュースコモンズでは、それぞれの記者の問題意識に基づき、この裁判を取材していきます。当裁判のように重大事件は関心の高さに反して、傍聴が高倍率の抽選となるなど、市民から見えづらい状況に置かれがちです。限られた人の情報共有に陥りがちな刑事事件の真相に光を当て、情報を広く共有するともに、この事件で焦点の一つとなっている山上徹也被告が殺害に至った背景も併せて伝えていきます。

シカは自由に出入りしていた。奈良地裁=奈良、2025年10月28日、撮影:岡本有佳



コモンズは、みなさまのご寄付に支えられています

生活ニュースコモンズの記事や動画は、みなさまからのご寄付に支えられております。これからも無料で記事や動画をご覧いただけるよう、活動へのご支援をお願いいたします  → 寄付でサポートする

感想やご意見を書いてシェアしてください!

記事を紹介する
  • X
  • Facebook
  • Threads
  • Bluesky