突然の衆院解散総選挙で、来年度の予算審議が先延ばしになることが確定しました。認定NPO法人キッズドアの理事長・渡辺由美子さんは、昨夏以来、困窮子育て世帯への給付金を求めて他の支援団体と政府に再三、要請を行ってきました。参院選、石破茂首相の辞職、総裁選と政治的空白が続き、そのたびに議論は先送りに。そして、この度の総選挙。困窮子育て世帯が今どういう状況にあり、何が必要なのか、お話を伺いました。
(聞き手・阿久沢悦子)
現金給付がないまま年末年始を迎えた母子たち
——今年に入り、福岡市城南区の、家賃が3カ月滞納されたマンションで母子3人の遺体がみつかり、無理心中の可能性で捜査されているというニュースがありました。渡辺さんは一早くSNSでニュースをシェアし、警鐘を鳴らされましたね。
事件は本当に残念でなりません。
当団体では困窮されている子育て世帯が登録する「ファミリーサポート」事業で、情報支援、物資支援、体験支援、就労支援などを行っていますが、毎年4月に募集を開始し、今年度はすでに4800世帯が登録されています。コロナ下のスタート時は1000世帯でしたから、急増したといえます。
この事業で日々お声を聞いている方たちの顔が浮かびました。現金給付がないまま年末年始を迎え、家賃滞納でさらに追い詰められてしまう……そういうことはいつ誰に起きてもおかしくない現状だと、物価高騰でお米が買えなくなった2年ぐらい前から感じています。ちゃんと政府なり行政なりが対応していれば、亡くならないですんだ命ではないかと思います。
物価高で、子どもの食事が減ったり栄養バランスが悪化
——昨年12月にはファミリーサポート登録者へのアンケート調査(2025年10月31日〜11月10日実施、回答数1,924)の結果を発表されました。
ファミリーサポートに登録されているのは9割が母子世帯。世帯収入は200万円以下が5割超で、3分の1に預貯金がありません。
一番深刻なのが、「保護者の食事が減ったり、栄養バランスが悪化している」という回答が75%に上ることです。「子どもには食べさせようと思うので、コロナ禍以降、ずっと1日1食です」という保護者が増えています。
「子どもの食事が減ったり、栄養バランスが悪化している」も49%と5割に迫っています。健康が損なわれて、子どもが痩せていくという声が多い。これは放って置いてはいけません。
3割に滞納があり、2割超に借り入れがあります。みなさん限界をとっくに超えていらっしゃるんですよね。自由記述には「ずーっとお金のことを気にしていなければならない」とあります。相談すればいい、声を上げればいいという意見もありますが、追い詰められた期間が長くなり、精神状態が非常に悪い。どうしたらいいか考えられなくなってしまう。自分たちでどうにかすることがとっくに無理な状況なんです。
まずは少し落ち着かせるために現金給付なりをして、気持ちを戻したり、体調を整えたりしてから、次の支援策につなげる必要がある。「お腹が空いた」と空っぽの冷蔵庫を開け閉めする子どもを見ながらふがいない思いをしているお母さんを放置している状況は、どうかと思います。

補正予算の子育て支援給付金では足りない
——高市首相は19日の記者会見で、補正予算で手厚い物価高対策を講じたと発言していました。具体的にはすべての子どもに1人2万円の「子育て支援給付金」を指すと考えられます。受け止めは?
全然足りないですね。子育て支援給付金はすべての子どもが対象ですが、困窮している子どもには2万円では足りない。お金が本当にない人は物の値段が上がると買えないんです。多くの家庭は「高くて困る」と言いながら買う。だけど、お金がない人は本当に買えない。お米が底をつくと、安い乾麺でしのぐしかない。その生活者のリアリティを政治家がわかっていないのではないかと思う。
1人2万円の給付に4000億円かかる。でも、私たちの試算では住民税非課税とそれに準ずる世帯の子どもに限れば、1人5万円でも1500億円ですむんです。健康が損なわれた子どもを最優先にするという、メリハリをつけた給付を行うことが政府の責任ですよね。
そしてこの2万円についても、自治体の事務作業に時間がかかり、給付は早くても2月末、そこに選挙事務が入ってくると3月にずれ込むおそれもあるといいます。遅すぎますよ。

新年度予算の遅れは困窮子育て世帯にも影響
——2月の選挙で来年度予算の審議が遅れるとも言われています。困窮子育て世帯にはどんな影響が?
給食無償化、高校無償化、所得制限の壁の撤廃などが滞り、中低所得者にも影響がでます。こども家庭庁の来年度の事業メニューを見て、各自治体は子育て支援事業を計画し、予算を編成することになりますが、それも後ろ倒しになる。
次のシーズンを見越した支援の仕込みも遅れます。命の危険につながる猛暑の対策として、夏休みも給食を出すとか、冷房の効いた安全な居場所を用意するなどの施策を立てなければいけません。制服をはじめとした学用品の値上がり、物価高に見合った児童扶養手当の拡充など議論しなければならないことは沢山ありますが、選挙になるとすべて止まってしまう。
特に昨年は参院選、総裁選と政治空白が続き、要望書を持って政治家に申し入れに行っても「責任ある回答がしづらい」と先送りになっていました。私たちも「今言いに言っても何も動かないよね」と思うことが続いた。ようやく終わったと思ったら、また衆院選。肌感覚でいうと一年遅れてしまったなと感じています。

守られなかった昨夏の自民党の公約
——高市首相はまた、食料品の消費税を2年間撤廃するという政策も掲げました。子育て世帯にとっては朗報ですか?
そうですね。みんな目先の1000円、2000円に困っている。月の食費が2万円の世帯で1600円の余裕ができるのはすごく大きい。現金給付をしないのであれば減税すべきだと思います。高市さんの会見を聞いてパッと思ったのは「できるんだ」ということ。それなら、もっと早くからやっておけばよかったのにと思いました。
もう一つ思ったのは、公約を守るというのは一体どういうことかと。昨夏の参院選で、自民党は全国民に年末に2万円を給付するという公約を掲げていました。私たちのアンケートの自由記述には、「選挙で2万円出すというから自民党に入れたのに、それがなくなったということに愕然としました」とありました。多くの国民にとって現金給付は無駄に映ったかもしれません。だけど、困っている人はそれがもらえるならと票を投じたわけですから、その公約が守られないことに絶望した、というんですね。
最初にお伝えした福岡のケースでも、石破さんが公約を守っていれば、年末には親子3人、計6万円の給付が受けられたかもしれない。それがあるなら年を越せる、がんばろうと思えたかもしれない。そう思うと罪作りな公約だったと思いますね。

「こどもまんなか」をスローガンに終わらせない
——子どもの貧困について、衆院選でどのような論戦を期待しますか?
少子化の中で、こども家庭庁は「こどもまんなか」というスローガンを掲げていますが、実態としては逆の状況が生まれている。高市首相の発言にも子どものことがほとんど出てきていません。
海外の友人と話をしていると、百歩譲って大人の困窮は自分でがんばれ、ということになったとしても、子どもは親を選んで生まれてくるわけではないので、その困窮の解決は国の最優先事項だよね、とどの国でも思っている。ところが日本はコロナ以降、ずっと困窮世帯の子どもたちに対応策がとられないまま、いまこの危機に陥っている。そこをしっかりとやってほしいと思う。
日本の政治は場当たり的で、出てきた現象に絆創膏をはるような対策が多い。不登校が非常に増えていますが、ひとり親の困窮世帯では不登校の子の率は有意に高い。私たちのアンケートでも夏休み明けの学校への行き渋りは18%にものぼります。生活が安定して、夏休みの間もご飯が3食食べられて、涼しい場所で宿題にも取り組めれば、学校に行けるかもしれない。状況改善のために、根源的な対策をしないと。
また、多くのひとり親が時間契約のスポットバイトで休日にも働いています。子どもの長期休みは早朝からスポットバイトを入れて、日中は別の仕事をするなど、無理な働き方を続けた結果として、メンタルの状況が悪くなり、体調も崩してしまう。そうすると子どもがヤングケアラーになってしまう。ヤングケアラー対策も重要ですが、ヤングケアラーを生まない予防のためにも、困窮する子育て世帯に手当をしてほしいと思います。
物価高騰で子どもが飢えているという状況はおかしい。私たちも調査をし、食料支援などにも取り組んでいますが、本来的には国が調査をして、手を打つべき課題です。コロナ禍の時には、こうした子どもの苦境を拾ってくれる議員がいましたが、今はロビーに行ってもあまり響かない。子どもの貧困は終わったことではなく現在進行形で、格差はさらに開いています。きちんと目を向けられる議員が増えてほしいです。
わたなべ・ゆみこ 認定NPO法人「キッズドア」理事長。子どもの貧困対策として、学習支援、体験支援事業などに幅広く取り組んでいる。

