赤ちゃんがいる経済困窮世帯の5割が紙おむつ、4割が粉ミルクを買えない経験 セーブ・ザ・チルドレン調査 乳幼児期の貧困に手当を

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紙おむつも粉ミルクも高くて買えない……。赤ちゃんを育てる人には手厚い給付が必要だね

乳幼児を育てている経済困窮世帯のうち、約半数が「紙おむつが買えない」、約4割が「粉ミルクを買えない」経験をしていることが、子ども支援の国際NGO団体「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の調査でわかりました。団体は一部自治体で実施している紙おむつや粉ミルクの現物支給の拡大などを求めています。

子どもの貧困の解消のため、団体が経済的に困難な状態にある世帯(住民税非課税世帯、児童扶養手当全部支給世帯など)を対象に行っている食料や育児用品の支給事業「ハロー!ベビーボックス」と「子どもの食応援ボックス」の利用者を対象に、昨年6月〜8月にオンラインアンケートを実施。0〜3歳の子どもがいる480世帯から回答を得ました。

おむつ替えの頻度を減らす

経済的な理由により紙おむつが買えなかった経験がある人は49.2%。その時にどのような対応を取ったか(複数回答)では「おむつを替える回数を少なくした」74.6%、「家族・知人・友人などに金銭的な支援を頼んだ」27.1%、「少しだけうんちをした場合は替えなかった」、「知人・友人から分けてもらった」がそれぞれ12.3%。おむつ替えの頻度が減ることにより、赤ちゃんが不衛生な状態になり、おむつかぶれや感染症の危険にもさらされることにつながっています。

(C)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

粉ミルクを薄めて飲ませた

経済的な理由により粉ミルクが買えなかった経験が「ある」は39.6%でした。

買えなかった時の対応(複数回答)では、「粉ミルクを薄めて飲ませた」41.1%、「粉ミルクをあげる量を減らした」27.9%、「粉ミルクをあげる回数を減らした」、「粉ミルクを減らし、授乳の回数を増やした」がそれぞれ26.8%。

(C)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

自由記述では「出なくても母乳を吸わせていた」「支援団体に何度かもらった」「お金を借りて買った」などの回答もありました。赤ちゃんの低栄養につながり、その後の発達や発育の遅れも心配されます。

よほどのことがない限り病院に行かない

子どもを医療機関の受診状況については、「仕事を休むとその分収入が減るため、よほどのことがない限り病院に連れて行かない」という設問に「よくある」「たまにある」と回答した人が39.8%、「医療費の自己負担や病院に連れて行く交通費がかかるため、よほどのことがない限り、病院に連れて行かない」という設問に「よくある」「たまにある」と回答した人は32.1%にのぼりました。

一番経済的に大変だった時期については、「出産直後から産後半年」という回答が39.0%と最多。保護者が働けず、保育園にも預けられない期間に紙おむつや粉ミルクの負担が重くのしかかっていることがわかります。

保護者の健康不安や孤独感、深刻

また、保護者の体調は「健康である」が44.0%に過ぎず、孤独感を感じることが「よくある」「時々ある」の合計が72.3%と高くなっていました。また、経済的な理由から「適切な養育ができないのではないかと思った」は49.0%にみられ、「子どもを育てられないと思った」は26.0%、「特別養子縁組や乳児院、児童相談所、親族などに預けることを考えた」は15.6%にのぼりました。

(C)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

4年前と比べ紙おむつ22%、粉ミルク25%値上げ

こうした状況に物価高が追い打ちをかけています。

総務省の小売物価統計によると、乳幼児用の紙おむつ(パンツ型Lサイズ、44枚)の平均価格は2020年12月には287円でしたが、24年12月には350円と、21.9%値上がり。粉ミルク(1缶800グラム)は20年12月の2,130円から24年12月に2654円と、24.6%値上がりしています。

常にお金の不安があった

自由記述には悲痛な声が寄せられました。

・乳幼児期は手当だけで生活していたので、常にお金の不安があった。一度にかかるミルクやおむつ代が大変だった。
・持続的支援があると助かります。経済的に苦しい理由にも様々事情がある。経済的DVを受けていても声にして言える環境がない人もいるので、経済的DVを含むDVを受けている人がSOSを出せるように、チラシ等を入れてもらえるとありがたいです。
・昔に比べたらたくさん支援があって助かっているのも事実。でもこの物価高、税金高で給料も上がらなくて本当に苦しい。数万円の差で児童扶養手当も減額となり、生活は苦しく未来の希望が見えない。
・育てるにはお金が必要です。手厚い支援がとても必要です。苦しいです。苦しんでいる家庭が沢山あることに早く、いち早く気づいて、そういう人たちのための給付金や支援金など扶養手当の増額、未来に繋がる支援が明日にでも必要なほどです。早く国のお偉いさんたちに目を向けて貰いたい、実感して貰いたいです。1日の食事を摂ることがどんなに大変なことか。体験してもらいたいくらいです。

自治体などに現物支給求める

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは調査結果を受け4点を提言しました。

①経済的に困難を抱える世帯に紙おむつや必要に応じて粉ミルクなどの支援を

②紙おむつなどの支給と自治体担当者の訪問をセットにし、定期的な見守りを

③母子保健と児童福祉が連携し、相談しやすい対応の強化を

④特に支援が必要な世帯に保育所などの優先的利用を

③に関してはこども家庭庁が全国の自治体に設置を求めている「こども家庭センター」が母子保健と児童福祉のハブ(連携拠点)となることが期待されています。一方で、設置は努力義務にとどまり、24年5月の時点で設置済みの自治体は半数にすぎません。

調査結果を報告するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンと小西祐馬・長崎大准教授

乳幼児期の貧困「人生に最も深刻な影響」

子どもの貧困問題の研究者で、長崎大学教育学部の小西祐馬准教授は調査結果を受け、次のように話しました。

「乳幼児期の貧困がその後の人生に最も深刻な影響を与える。にも関わらず、乳幼児期の貧困は長らく無視されてきた。2023年に制定されたこども大綱には、『こどもの誕生前から幼児期までの育ちをひとしく、切れ目なく保障する』と、ある。日本でも、OECD諸国と同様に、乳幼児期のスタートを支援しようという動きがようやく出てきた」

今回の調査結果については「生活保護などの制度はあるが使えない、使うことに抵抗があるという乳幼児の親たちは多い。保護者のうち健康であると答えた人が44%にとどまるのも深刻だ。うつ病、メンタルヘルスの問題が大きいことが推測される。親が精神的に不調である中で育児に関わることの困難さがある。それが虐待につながることもある。孤立も大きい。夫も実家も頼れない中で子育てすることのつらさを理解すべきだ。育てられない、手を放した方がいいという親も出てきている」と指摘しました。

そして「子どもは生まれながらにして権利の主体であり、赤ちゃんにも権利がある」と強調しました。

「子どもはもっと食べたい、もっと清潔にしてほしい、もっと遊びたいと訴えている。親子ともに乳幼児期は最も祝福され、最もケアされるべき時期。そんな中で自分だけがひとりぼっち、なぜ、ミルクもオムツもないのだろうというのは、苦しく寂しいこと」

日本で生まれる子どもは年約70万人。その10〜15%が貧困状態と推測されます。

小西教授は「数万人の規模で今調査のような親が存在しているのが、日本の現状であることを認識し、支援について真剣に考える必要がある」と結びました。