生活保護やひとり親世帯、社会的養護出身など困難を抱える子どもの入学や進学、新生活開始に、あと少しの支援を——。支援団体と、子どもの貧困対策議員連盟(会長:田村憲久衆院議員)の国会議員らが4月14日、東京・衆議院議員会館で院内集会を開き、支援拡充を訴えました。
低・中所得層に広がる生活苦
議員連盟は、2年前から「教育格差ワーキングチーム」(座長:細野豪志衆院議員)を作り、学用品の学校備品化、通信制高校の通学費の学割適用、大学入学金の二重払い(*1)などの問題に取り組んできました。しかしながら「格差は埋まっていない」というのが支援団体と議員の共通認識です。
*1……本命校の合否判定前に入学金の支払い期限が来るため、実際には入学しない大学に入学金を納付しなければならない状況を指す。経済的困難がある世帯の子どもは受験機会が制限され、不利になる。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2021年の子どもの貧困率は11.5%で9人に1人。2012年の16.3%をピークに低下傾向にありますが、これは高齢単身世帯の増加などで貧困率の基準となる所得の中央値が下がったことが影響しているとみられます。全世帯の中央値は423万円ですが、子どものいる世帯の中央値は710万円です。学習支援などに取り組む認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は「低所得だけでなく、中所得世帯にも生活苦が広がっている」と指摘しました。
入学金の「二重払い」解消など10項目を要望
キッズドア、公益財団法人あすのば、一般社団法人Campaign Lab入学金調査プロジェクト、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、国や自治体に入学や進学、新生活施策の拡充を求める共同要望書をまとめました。要望は10項目です。
①学用品などの備品化、学校指定の見直し・削減
②就学援助制度の新入学準備金の増額、入学前支給の全国一律の実施
③高校生等奨学給付金の増額と「高校入学準備金」の新設
④高校生等へのタブレット端末などの無償貸与
⑤私立高校入学金の「二重払い」防止
⑥私立大学入学金の「二重払い」の解消など
⑦生活保護世帯からの大学等進学時における「世帯分離」要件の撤廃
⑧高等教育無償化の対象拡大や国の奨学金の増額・無利子化・返還の負担軽減
⑨既存の公的貸付制度の運用改善
⑩若者の就労と新生活の安定などへの支援

各団体の調査でも、物価高などを受け、進学費用や入学に必要なものが準備できない様子が浮き彫りになりました。
あすのばが住民税非課税世帯、生活保護世帯を対象に行った入学・新生活応援給付金アンケートでは、入学時の平均費用は小学校が13万9224円、中学校が14万8396円。中学卒業(高校入学)が39万6033円、高校卒業(大学・専門学校入学、就職新生活)が86万9125円でした。

特に費用の負担が大きかったと感じられるものは制服・標準服代(61.6%)、体操服(47.4%)、教科書や参考書(39.2%)、入学金(33.1%)の順。
「卒業・進学のために借金した」が40.2%、「就学援助制度が負担をまかない切れていない」は68.4%にのぼりました。
高校生等奨学給付金は毎年、入学後の7月に申請、その年の12月までに支給されるという立替払いが必須の運用になっていますが、支給時期が遅いという声が71.3%に上っています。
オンラインで学生2人が入学、進学時の困難について話しました。
生活保護、大学進学時に世帯分離を迫られた
◆儚さん(仮名)
生活保護世帯、母子家庭で育ちました。現在、「貧困・生活保護」をテーマに研究する大学院生です。
生活保護世帯の子どもが高等教育(大学、専門学校等)に進学する際は、世帯分離をしなければなりません。親は保護費が減額され生活困窮となり、子どもは国民年金、国民健康保険を一人で賄うことになります。
私は、受験費用は社会福祉協議会に借りました。大学の合格通知を持って市役所に行くと、職員にコピーを取られ、「保険証」を渡されました。国民健康保険料を何かわからないまま支払うことになりました。
国立大学かつ自宅外通学だったので、低所得世帯の子どもの進学に際し、学費を減免する国の修学支援新制度の恩恵を受けました。ただ入学金の納付が間に合わなくて、社会福祉協議会に借りました。私はこの制度に助けられましたが、低所得者に支援すると中間層があぶれてしまうという問題があります。
2022年、厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会で、大学に通うことは「最低限の生活」ではないとして、大学生が生活保護を受けることを認めませんでした。大学進学をするために世帯分離をしなければならないことと、大学生が生活保護を受けられないことは連動しています。次の会議は2027年、この問題の当事者を入れて議論していただきたいです。
スタートラインに立つことすら難しい
◆若菜さん(仮名)
社会的養護(*2)出身の大学生です。両親からの虐待などがあり、児童相談所に一時保護を繰り返し、大学受験直前に施設に入りました。そのため高校生の時に進学費用を準備することができませんでした。入学金を支払える見込みがなく、私立大学は受験をあきらめ、国公立一本、合格できなければ施設を出ていかなければならないというつらい状況でした。
なんとか合格した後も困難は続きました。高等教育修学支援新制度の給付は入学後数ヶ月経ってからの振り込みで、教科書代、備品の購入など入学時に必要な費用を用意できませんでした。スーツを買うこともできなったので入学式の出席もあきらめていました。最終的には施設からスーツ費用を貸し付けていただき、出席することができましたが、学用品を買えず、スタートラインに立てていないという劣等感を強く感じました。
その後、身体に障害を負い、やむを得ず大学を換わることになりました。転学すると、高等教育修学支援新制度の対象外となってしまいます。複数の民間の奨学金を借りてなんとか学業を続けていますが、成績を維持し選考を受け続けることがとても大変です。心身ともに疲弊して学業をあきらめた人を何人も知っています。私は、今は強い気持ちでしがみついていますが、なぜ生まれてから不便な思いをして傷ついてきたのに、まだ苦しい思いをし続けなければならないのかと、世の中に対しての不公平感でいっぱいです。
現在の大学に入るまでの一時期、生活保護を単身で受けていましたが、大学に進学できるのかケースワーカーによって意見が異なり、もどかしい思いをしました。
進学時に利用できる社会福祉協議会の貸付制度も地域によって運用が異なります。
経験から困難な状況にある子どもの進学や新生活に、何点かの改善の必要を感じています。
大学入学金の納付期限、分納のしくみ、入学前に必要な費用の支援を整えること。
社会的養護からであってもキャリアを形成し、安定した暮らしができるように支援をしてほしい。入学してからでは間に合わない、スタートラインに立つことすら難しい状況を改善してほしい。
やむを得ない事情による進路変更についても最短卒業年数の間は公的な修学支援の対象として認めてほしい。
生活保護や公的貸付の地域運用差の改善を進めていただきたい。
現在、就職活動中ですが、新生活への不安を大きく感じます。進学、就職などのライフステージで切れ目のない支援をお願いします。
*2……親の死亡、病気、虐待、貧困などによって家庭的養護が受けられない子どもに公的機関が社会的な養育・保護を行うこと
子どもの貧困が若者の貧困へと連鎖
団体や当事者の話を受け、日本大学の末富芳教授が、昨年2月に実施した15〜39歳の4000人の若者調査をひいて「子どものころに衣食住の困難を経験していた人は若者になってもなお困難が続いている。貧困の連鎖が断ち切れていない」と解説しました。
過去1年間に経済的理由でできなかったことを聞いたところ、「食料が買えなかった」11.2%、「借金したことがある」9.0%、「年金、税金などの納付が遅れた」8.7%、「トイレットペーパーなど生活必需品のお金に困った」8.4%と若者の約1割が深刻な貧困状況を経験していることがわかりました。

さらに子どものころに5つ以上「できなかった」ことがあった人は「食料が買えなかった」が42.4%、「トイレットペーパーなど生活必需品のお金に困った」37.1%、「医療が受けられなかった」32.4%とより深刻でした。
「とても必要」「必要」という回答が多かった支援ニーズは、「公共料金の割引・免除」が61.4%、「若者手当などの経済的支援」61.7%、「大学・専門学校の奨学金返済の軽減」53.9%、「低所得の若い親向けの子育て支援の増額」54.7%、「家賃補助」57.4%、「食料支援」53.3%。
末富教授は「がんばろうとする若者をあと少し支えれば、社会で活躍していける。そこに支援を入れてほしい。継続的な支援に財源を入れてほしい」と話しました。

