いよいよ大詰め イチからわかる再審法改正 鴨志田裕美弁護士の発言から経緯を解説 4万筆超の署名提出

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検察官がノーという権利を温存したままでは、冤罪被害者の救済にならないよね。

再審制度を見直す刑事訴訟法改正についての議論が大詰めを迎えています。再審制度とはいったん有罪が確定した人が無実を訴えている場合に、どのような条件であれば刑事裁判をやり直すかを定めた規定です。法務省の法制審議会がまとめた改正案が閣議決定される見通しでしたが、検察官の抗告権(裁判所の決定に不服を申し立て、再審をひらかせない権限)を温存したことなどから、「これでは再審の扉は重いままだ」という反発が国会議員に広がり、自民党内の事前審査で修正を重ねて来ました。連休明けの5月7日、検察官の抗告権を原則禁止する再修正案が自民党部会に示される見込みです。

冤罪被害者を救済する再審制度を求めて「無実の人を救おう!署名連絡会」が4月22日、都内で記者会見を開きました。会見に出席した鴨志田裕美弁護士の発言から、この間の経緯と法制審案の問題点を改めてまとめました。

再審法改正は日弁連60年の悲願

鴨志田弁護士は、日本弁護士連合会の再審制度改正推進室長です。鹿児島県大崎町で1979年に発生した男性の死亡事件「大崎事件」(*1)で、有罪判決を受けた原口アヤ子さんの再審請求を続けています。

*1……1979年鹿児島県大崎町で男性の死体が見つかった事件。事故死の可能性もあったが、殺人事件として捜査され、男性の長兄の妻、長兄、次兄、次兄の長男の4人が殺人・死体遺棄罪で有罪判決を受けた。長兄の妻、原口アヤ子さんは一貫して無実を訴えている。第1次再審は地裁で、第3次再審では地裁、高裁と過去3度も再審開始決定が出されたが、そのたびに検察の抗告で取り消された。第4次再審請求が2025年、最高裁で棄却された。この際、宇賀克也裁判官のみ、再審開始すべきという反対意見を付している。2026年1月第5次再審請求を申し立てた。現在原口アヤ子さんは98歳である。

鴨志田弁護士は「再審法改正は日本弁護士連合会60年の悲願です」と切り出しました。

最初に日弁連の意見書が出たのは1962年。今から64年前です。その後、80年代には、いわゆる死刑再審4大事件(*2)がいずれも無罪になりました。無実の人がいずれも30年以上の長きにわたり拘留されていたのです。

*2……免田事件(1948年発生、1983年無罪確定)、財田川事件(1950年発生、1984年無罪確定)、松山事件(1955年発生、1984年無罪確定)、島田事件(1954年発生、1989年無罪確定)

「本当はこの時に再審法が変えられなければならなかった。でも世論は無罪になってよかったねということをゴールにして終わってしまった」

袴田さんの悲劇を二度と繰り返してはいけない

島田事件の再審公判が行われていた時に、同じ静岡地裁に袴田事件(1966年発生、2024年10月再審無罪確定)の第一次再審請求がかかっていました。

「そのときに再審が開始されていれば、袴田さんは無罪となるまで58年もかからずにすんだんです。(長期間の拘禁反応で)心を壊すことはなかった。心身ともにお元気なうちに無罪になれた。私たちはもう二度とこんなことを繰り返してはいけない。そう考えて再審の問題に必死に取り組んで来ました」

日弁連内に再審法改正実現本部が立ち上がったのは2022年6月。国会議員への粘り強い働きかけが実って、2024年3月には、超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(以下議連)が結成されました。2024年9月、袴田巌さんの再審無罪判決の中で警察・検察による証拠のねつ造や証拠隠しが明らかになり、議連が再審法改正に向けた議員立法を準備しました。主な改正点は以下の4項目です。

①証拠開示のルール化
②検察の抗告権禁止
③手続き規定のルール化
④通常審に関わった裁判官の忌避

打越さく良参院議員に署名簿を手渡す鴨志田裕美弁護士(左)=東京都内

人生そのものを奪う再審法の不備を跳ね返す法制審

一方、それまで改正に消極的だった法務省は法制審議会で改正案を作成すると表明。2025年4月から2026年1月のわずか10ヶ月間に18回、非公式の会議を開き、素案をまとめました。鴨志田さんは日弁連が推薦する3人の委員のうちの1人でした。

「会議場に行ったら、私たち以外の委員は法務省、検察官、裁判官、警察。研究者は6人もいたが、みんな同じことを言う。『法的安定性』。三審制の下で慎重に判断して有罪が確定したものを、そんなに簡単に覆すことは法的安定性を害する、と」

「人生の長い貴重な時間を、人生そのものを奪う再審法の不備を、私たちが立法事実として突きつけても、法務省が人選した委員たちはそれをまったく聞かずに跳ね返す。そうして絶望的な答申案ができた」

法制審議会の答申案の特徴は次の通りです

①証拠開示の範囲を限定
②検察官の抗告権を温存
③調査手続きやスクリーニングを設ける
④開示された証拠の目的外の使用を禁止

「どう考えても後退としか思えない。このままこれが閣議決定されてしまって、今国会に提出されたら、もう終わりだと絶望的な気持ちでした。それに輪をかけて絶望的な気持ちになったのは1月に衆議院が解散されたことです。それまで継続審議になっていた議員立法案がここで廃案になってしまった」

付則は何の保障にもならない

状況を一変させたのが法制審案を閣議決定する前に開かれた自民党の党内審査でした。もともと議連には自民党の議員が多く、再審法改正への知見の積み重ねがありました。

「党内審査は(4月22日までに)9回。1回1時間の予定が、一番長い時は4時間。議連の中心にいた柴山昌彦さんや井出庸生さん、稲田朋美さんを中心に、このままでは(冤罪被害者の)救済にならないという意見が怒濤のように出てきた。私も2回ほどヒアリングで呼ばれたが、日に日に、議連の意見に与する意見が増えていっている

閣議決定は4月10日から、23日、連休明けへと2度繰り延べされました。

法務省は4月15日、修正案を提出。「検察官の抗告権を温存」したまま、付則で条件を定めました。

「検察は重大な事実誤認といった十分な理由があると認める時でなければ、抗告をしてはならない。裁判所の決定を抗告から1年以内にする。こうしたことが『付則』に書いてある。付録の付です。おまけ。法制審の条文案には指一本触れていない。修正案のおまけでついた努力目標のようなところに、いくら早くやります、ちゃんとやりますと書かれていても何の保障にもなりません。法的拘束力もありません。本体に抗告禁止が入らないのに、なぜ付則で入れているんでしょうか。やっていることがむちゃくちゃです」

「逆にこうしたことから法務省の考え方が明白にわかってきました。検察官の権限はとことん温存したい。再審請求人の請求はなるべく認めたくない。請求のスクリーニング(選別)や検察の抗告後の審理期間を定めて裁判所までも縛る。ぜひ大幅な修正をしていただきたい。私たちが盛り上げて、議員立法案を再提出する動きにしていかないといけない。法務省案を撃沈しないといけない。あとちょっとです。がんばりましょう」

証拠開示がもっと早くに進んでいたら

記者会見には狭山事件(*3)で無実を訴えたまま亡くなった故・石川一雄さんの妻、石川早智子さんも出席しました。

*3……1963年に埼玉県狭山市で発生した女子高生誘拐殺人事件。被差別部落に対する見込み捜査で、無実の青年石川一雄さんが軽微な別件で逮捕され、本件(狭山事件)での自白を強要した。一審死刑判決、1974年、二審の東京高裁で無期懲役の判決を受けた。石川さんは二審から無実を訴え、三度の再審請求を行ったが、再審が開かれぬまま2025年3月に亡くなった。

一雄さんの遺影とともに記者会見に出席した石川早智子さん=東京都内

早智子さんは「事件発生から63年が経っても多くの証拠が隠されたまま。検察は弁護団の証拠開示請求を今も拒み続けている。証拠開示がもっと早くに進んでいたら、こんなに長くかからずに裁判が始まっていたかもしれません。夫は再審が叶わず、無念の思いを残したまま旅だってしまいました。検察の不正義を許してきた今の再審法では苦しんでいる人は救われません」と訴えました。早智子さんは79歳。一雄さんの遺志を継いで、第4次再審請求を申し立てました。

お話の最後に一雄さんの短歌を2種、紹介しました。

「人生の終焉までにはさまざまあれど我の二の舞、断固断つ」

「我が使命、二度と起こさぬ冤罪の根絶目指し活動一筋」

請願署名4万1266筆

「無実の人を救おう!連絡会」の署名運動は2月20日にスタート。衆参両院議長と法相にあてた請願の形を取るため、オンラインではなく住所を明記した手書きの署名簿で2カ月間に4万1266筆を集めました。4月23日に衆院議長に提出しましたが、さらに署名を募っていく予定です。

請願項目は以下の3点です。

①再審においては、再審請求人等が希望するすべての証拠の開示を可能にすること
②再審開始決定に関する検察の不服申し立てを禁止すること
③再審手続き全般を整備すること

署名簿の提出先は〒104-0042 東京都中央区入船1-7-1

info.mukyuuren@gmail.comでも受け付けています。

冤罪犠牲者の会など3支援団体による共同オンライン署名「再審法改正は議員立法で」、「冤罪犠牲者とその家族の共同声明」も、賛同を募っています。

署名簿提出の記者会見には角川歴彦さん、前川喜平さん、永田浩三さん、鎌田慧さんらも出席した=東京都内

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