DV、虐待の被害者に迫る危機 懸念の声を無視して進む、離婚後共同親権の国会審議

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DVや虐待の被害者を追い詰める法律ができるの?

離婚後の共同親権を可能とする民法の改正案が、国会で審議されています。

審議では、共同親権に関する質疑に対して、法務省を中心に官僚の答弁が聞かれます。子どもの教育や医療行為の決定についても、単独で行えるのか、両親の合意が必要なのか、明確な回答がなされず、懸念は募るばかりです。

DV、虐待ケースへの具体的な対応が提示されず、当事者は不安を抱えています。このまま法案が採決された場合、既に離婚した父母であっても一方の申し立てにより、共同親権が定められる可能性があります。

「子どもの最善の利益」が打ち出される一方で、「子どもの被る危険」はどれほど考慮されているのでしょうか?

離婚後共同親権 制度としての必要性は?

現行の単独親権制度のままでも、父母の関係が良好であれば、離婚後も協力して子育てを行うことができます。父母の意見が対立する場合は、最後の決定を行う権利を、親権者がもつことになります。

離婚後に共同親権となった場合は、父母両方の承諾が必要となります。両方の親が首を縦に振らなければ、子育てに関する重要な決定ができなくなってしまいます。

民法の改正案は、令和6年1月30日に取りまとめられた「家族法制の見直しに関する要綱案」(以下、要綱案)に沿う形で作成されています。

要綱案によると、子育てについて父母の意見が対立する場合は、どちらの親権が行使されるかを家庭裁判所が決定できるとしています。

離婚後の父母は、関係が良好であるとは言えないのが通常です。加えて、離婚後は別居での生活となることが想定されます。

離婚の原因においても、性格の不一致や精神的な虐待が上位を占めています。(※1)

※1)最高裁判所事務総局「令和3年 司法統計年報 3家事編」(2022年8月刊行)
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/597/012597.pdf

そのような状況で共同親権が定められてしまえば、係争が増加することは明らかです。

さらに、協議離婚、裁判離婚のどちらであっても、共同親権が定められる可能性があります。父母の関係性が破綻してもなお、共同親権となってしまえば、DV、虐待の被害者に逃げ場はありません。

父母が対等な関係性でなければ、協議とは名ばかりになってしまいます。社会的地位や経済格差を背景とした力関係により強者の意見が優先される結果とならないよう、懸念の声に耳を傾けるべきです。

支援団体による懸念の声

2000年6月17日の発足以来、富山県でDV被害者の支援を行ってきた「グループ女綱〜ストップDVとやま〜」に、離婚後共同親権に関する意見を聞きました。

殴る蹴るといった身体的暴力だけがDVではありません。DVの本質は所有と支配です。さらに、DVのある家庭では児童虐待も同時に起きている可能性が高いことを視野に入れておく必要があります。

対等な関係、尊重しあう関係ではなく、精神的に支配されていると、あなたが悪いと言われていて、自分が悪いからしかたないと暴力にあっているのに気づかない人や、離婚してからDVだったと気づく人もいます。

現状では、別居や離婚がDVから逃れる手段です。共同親権になると、離婚後も支配が続くことになります。また、子どもと一緒に家を出ることも難しくなり、離婚もし難くなるのではないかと懸念されます。

DVの場合は例外にすれば良いので、片親で育つより、離婚後も共同で子育てをすることが、子どもにとって利益になると思っている人も多いと思います。本当にそうでしょうか。離婚調停や裁判でも、証拠を揃えてDVだと立証するのは難しいです。とにかく離婚したいという気持ちから、DVは表に出さないで協議離婚する人も多いです。

共同親権導入後、被害を受けている側の親と子どもを守る判断を、裁判所が迅速にしていくための仕組みは示されていません。あまりにも早急に法案が成立しようとしている現状に、大きな不安と怒りを感じています。

「子どもの最善の利益」は誰が決める?

子どもと会えないことを理由に、離婚後共同親権の導入を望む声があります。しかし、現行制度であっても、親権のない親が子どもと会うことは可能です。

離婚後に共同親権が定められた場合、子どもの意思とは関係なく面会が強制される可能性が高くなります。

子どもが面会を拒むような場合であっても、子どもが幼く、精神的に成熟していないとみなされたとき、その意思は軽視されてきました。

子どもが、別居親との面会交流に拒否的な意見を言えば「どうして?」「楽しいときもあったんじゃないかな?」「お父さん(お母さん)、会いたがっていたよ」「短い時間ならどうかな」「どういうふうだったら会えるかな?」などと、面会交流に応じざるを得なくなるような誘導的な質問がなされました。

面会交流と共同親権 当事者の声と海外の法制度(2023) p.92
熊上崇 編著, 岡村晴美 編著, 小川富之 著, 石堂典秀 著, 山田嘉則 著

DVや虐待が認められたとしても、強力な説得がなされ、面会を促される実態があります。子どもが体調を崩したり、自傷行為をしたりしても、強引に行われる面会が「子どもの最善の利益」になるとは思いません。

離婚後共同親権が導入されると、「子どもの最善の利益」を巡る対立が強まります。子どもの声は、さらに届かなくなるのではないでしょうか。

子どもが別居親に「会いたい」にせよ「会いたくない」にせよ、その意見を聞いて尊重してくれることで、子どもは親や社会への信頼感を育てることができます。逆に自分の意見が聞かれても尊重されない、もしくは意見が聞かれないことについては、子どもは無力感を抱きます。

面会交流と共同親権 当事者の声と海外の法制度(2023) p.200
熊上崇 編著, 岡村晴美 編著, 小川富之 著, 石堂典秀 著, 山田嘉則 著

離婚後共同親権よりも先にジェンダー平等を

「ジェンダー・ギャップ指数2023」において、日本は過去最低の125位(146か国中)と発表されています。国際的に見ても、日本の男女間における経済格差は大きく開いています。

格差がある中で対等な協議を行うことは困難です。女性の政治参加が進まなければ、この状況を是正することもできません。

DV、虐待の背景には、自身の優位を示し、支配しようとする意識が存在します。社会がジェンダー平等から遠ざかる中で、名目だけの「共同」が義務となれば、当事者の安心、安全が損なわれます。

周囲には「共同」の義務を果たしているように見せなければならないとすれば、それはDVの構造そのものです。離婚後共同親権の根っ子には、ステレオタイプの家族観や結婚観があるように感じてなりません。

DV、虐待当事者の声を汲み取って

要綱案の「附帯決議」には、以下のように記載されています。

父母の別居・離婚後の子の養育に関する法制度や各種支援の在り方については、この部会において将来的な検討課題であると指摘された事項も含め、国民の意識や考え方の変化に応じた随時の検討が求められる。

共同親権の導入を含む「家族法制の見直しに関する中間試案」のパブリックコメント(意見公募)には、8,000件を超える意見が提出されました。

共同親権に関する意見は、導入に「反対」が「賛成」の2倍を占めました。一方で、提出したパブリックコメントが公表されず、制度に反映されていないとの訴えが上がっています。懸念の声が広がる中で、「国民の意識」に応じた検討がなされていると言えるのでしょうか。

法制度や各種支援の在り方を考えるのであれば、DV、虐待の被害者や支援者の声を率先して汲み取ることが不可欠です。

要綱案の採択、閣議決定を短期間で通過し、離婚後共同親権の審議は性急に進んでいます。
弱い立場の親や子どもに犠牲を強いる仕組みとならないように、十分な精査が行われなければいけません。

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