【動画あり】共同親権が子どもの進学を困難に 授業料給付や減免の判定で、離婚後の父母の収入を合算

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共同親権になったら高校無償化の枠からこぼれる?

共同親権は、教育の無償化や社会保障の費用を削るため?

国会で審議中の民法改正案をめぐり、そんな疑問が浮上しました。
共同親権になれば、子どもの高校無償化の受給条件が、離婚後の父母の収入の合算で判定されるという解釈が、文部科学省から示されたのです。4月5日の衆議院法務委員会で、立憲民主党のおおつき紅葉議員が質問しました。こちらの動画(1分46秒)をご覧ください。

おおつき紅葉議員

高校等の就学支援金……親権者が2名の場合は2名分の収入証明が必要となります。では、離婚後の共同親権の場合……同じ扱いになるのでしょうか。

文科省大臣官房審議官

高等学校等就学支援金につきましては、保護者等の収入に基づき受給資格の認定が行われますが、 保護者の定義は法律上、子に対して親権を行う者と定めております。そのため、共同親権を選択した場合には、親権者が2名となることから、親権者2名分の所得で判定を行うことになります。

高校無償化の枠からこぼれおちる子も

高等学校等就学支援金は、いわゆる「高校無償化」制度のこと。父母(親権者)の年収に応じて、高校の授業料に相当するお金(公立11万8800円、私立39万6000円)が国から支給されます。文科省の試算では、子ども1人の場合、これまで親権者1人の時は、公立は年収約910万円以下、私立は年収590万円以下が対象でした。この基準額が、親権者が父母双方になり、両親の所得の合算となると、年収1030万円以下、660万円以下に跳ね上がります。今までもらえていた高校無償化の枠からこぼれおちる子どもが出てくることになるのです。

文部科学省ホームページより

同じく「親権者」の所得で判断されるのが、大学や専門学校への進学を支援する高等教育の修学支援新制度です。大学の授業料減免と給付型奨学金を組み合わせた制度で、2020年に始まりました。現在の親権者の年収別の最大支援額は年収270万円以下で161万円、年収300万円以下で108万円、年収380万円以下で53万円です。2024年度から3人目の子ども、私立理工学部に進学した子どもを対象に年収600万円以下の中間層にも支援が広がりました。こちらも、別居親が親権を持ち両親の所得が合算されることになると、養育費が支払われず家計の状況が改善していなくても、支援が受けられなくなる子どもが出てくる心配があります。

文部科学省ホームページより

文科省大臣官房審議官は質疑の中で「DVや虐待があった場合は、親権者を1人として判定する」と答弁しました。しかし、家庭裁判所がDVや虐待の有無を的確に判断できるのか、弁護士やDV被害当事者からは疑問の声が上がっています。

【夫のDVが原因で離婚した女性】

一貫して(DVを)訴えてきましたが、認定されませんでした。
私は、裁判所がDVを見抜けるなんて思っていません。
私自身は給料も少なくて、いくら馬車馬のように働いても少ない給料でなんとかやりくりしています。現在の児童扶養手当も収入の要件は厳しいです。このまま共同親権が進められてしまうと、今もひとり親家庭の貧困率は高いのに、そういう子どもたちがすごく増えてしまうと私たちも不安です。

児童扶養手当や扶養控除にも影響

児童扶養手当や児童手当は、親権の有無ではなく、生計を同じくし、子どもを監護している親に支給することになっています。しかし、現在議論されている改正案では監護者指定を義務づけておらず、共同親権・共同養育になった場合に、父母のどちらに手当が支払われるか、判然としません。

日本のひとり親家庭の約半数が相対的貧困の状態にあります。特に母子世帯は、母が非正規の仕事につく割合が高いため、平均の就労年収は236万円。これに児童扶養手当や養育費などを足しても年収373万円と、子どもがいる世帯の平均年収785万円の半分を満たしません。もしこの状態から、児童扶養手当の支給が止まったり、父の方に手当が支払われるようになったりしたら、生活はたちまち詰んでしまいます。

16歳以上23歳未満の子どもを扶養している親が、所得税の課税額から控除を受けることができる「扶養控除」の問題もあります。扶養控除の適用を受ける場合、親と子は同一生計であることが条件ですが、同居か別居かは問いません。別居親が養育費を払っている場合は「生計を一にするもの」として扶養控除の対象になることがあります。子どもにかかわる各種給付金は扶養控除後の年収を基準として算定されることが多いため、保育料や日常生活支援にも影響が出るおそれがあります。

このように共同親権は、子どもの教育や生活に大きな影響を及ぼす制度です。教育の無償化や社会保障について細部を詰めることなく拙速に導入すれば、そのしわ寄せはとりわけ経済的に困難な状況にある子どもに来ることになるのです。