離婚後の共同親権導入で22万筆超の反対署名提出 DV被害当事者らの声を聴いて

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共同親権に反対の声が22万筆以上集まったんだって

 離婚後の共同親権を導入する民法改正案が衆議院で可決され、参議院での本格的な審議を前に、改正案の廃案や見直しを求める集会が4月23日、衆議院議員会館(東京都)で開かれました。集会の冒頭で弁護士や学者らが、共同親権導入を中止するよう求める22万6287筆のオンライン署名を国会議員へ手渡しました。

 集会には、DV(ドメティックバイオレンス)被害の当事者や支援者、改正案に反対を唱える弁護士、学者、医療従事者、国会議員が参加し、改正案の問題性について訴えました。

法案の不十分さが衆院の質疑で明らかに

 離婚後の面会交流を子どもの立場から検証している和光大学の熊上崇教授は、衆議院の審議で明らかになった法案の問題点を指摘しました。

「多くの国民が反対しています。衆議院法務委員会の質疑で、法案が不十分であることが明らかになりました。子どもの学校教育、特別支援学校の進学については親権者双方の合意が必要になる。これでは一方が合意しなければ、子どもが教育を受けられないことになりかねない。また一方がした契約や承諾を、一方が取り消すという『無限ループ』も、指摘されています。学校のプールに今日入れるかどうか、習い事をどうするかなど、いつまでたっても定まりません」

衆院で明らかになった法案の不十分な点について話す熊上崇教授(右)=東京都千代田区

法案は監護者(子どもの日常の世話をする者)を定めなくても離婚ができるとしています。熊上教授がいうような許可と拒否がせめぎ合う「無限ループ」の問題は、監護者を定めないと解決はできません。

「高校無償化の就学支援金の算定でも、共同親権導入後は父母の収入を合算するとしています。DVなどがある場合は単独(の収入)でいいとしていますが、算定業務を担う自治体はDVをどのように判定するのでしょうか。結果的に支援金が受けられず、進学をあきらめる子が出てきてしまいます」

熊上教授は力を込めました。

「子どもをいじめる法案を通してはいけません。子を監護する親にも不安や不利益を多くすることがあってはならないと思います」

養育費や面会交流は親権と無関係

この日の集会では、DV被害者の当事者、支援者の訴えが続きました。

(DV被害当事者・Tさんの訴え) 

私は、DVと虐待のサバイバーです。当事者としてDV防止法の第1回改正から関わってきました。
そうした経験から、本当に共同親権が子どもの利益になるのか疑問です。養育費や面会は親権に関係ない。決まっていても養育費を払わない人が、親権者となって子どもの幸せを考えてくれるかは、甚だ疑わしい。子どもの権利がきちんと守られる状態でなければなりません。共同親権になると子どもの居所(住んでいるところ)を相手方が指定できることになりますが、居所が知られることは当事者にとって恐怖でしかありません。DVや虐待があるケースは共同親権にはしないという留保がついていますが、家庭裁判所はDVや虐待をそう簡単に見抜けません。
いじめをしている側には自覚がないとよく言われます。暴力を受けている側の気持ちと加害をしている人の意識、感覚には乖離があります。当事者は洗脳状態で自分が悪いからと信じ込まされ、人に相談し、決断していくのが難しい。また表には出にくいのですが、性的被害もあります。これは家族間、親子間、夫婦間でもあるのです。
私自身、子どもを妊娠中に前置胎盤で入院を勧められましたが、夫の反対で入院することもできませんでした。その中で性交を強要され、出産後もすぐに避妊なしで強要されました。中絶にも反対されました。子宮破裂であやうく死ぬところでした。
でも、それがDVだと理解してくれる人は、当時はいませんでした。
DVを証明するのはとても難しいです。お前は最低の人間だと言われる数十年を過ごした経験は、誰にもわかりません。虐待防止法もDV防止法もまだ20年あまり。十分に被害者を支える仕組みができていない中で、共同親権ができるのは恐怖です。

永遠に支配が続き、社会が病む

SAYASAYAの共同代表が示したDV被害者が描いた家族の絵(左)=東京都千代田区

DV被害者を支援する「女性ネットSAYASAYA」の共同代表

これまで24年間、DVに遭った女性と子どもを支援してきました。支援活動で聞いた重い当事者の声を届けたいと思います。
GBV=ジェンダーベースド・バイオレンスという言葉があります。社会的性差<ジェンダー>に基づく暴力の意味です。離婚後共同親権と聞いただけで、女性たちは「せっかく自由になれたのに、怖い」と反応しています。子どもたちも、「お父さんの言うことを聞かないと学費をもらえなくなる、怖い」と反応しています。女性たちはDVのフラッシュバックで、またうつ状態に。仕事に行けなくなったという人もいます。なんのために苦労して家を出たかわからない。せっかく夫の下を離れたのに、まだ支配が続くのです。
和気あいあいと食卓を囲む「家族幻想」の上に共同親権の議論がされています。現場の女性たちの苦悩を知らないで決めていると思いました。
DVの被害者が描く家族の絵です。家の中心にどーんと父がいて、子と母が隅に追いやられ、怯えている。
日本社会はそもそもがジェンダー不平等なんです。被害者はみなさん、希死念慮をもっていらっしゃる。何を努力しても相手に気にいってもらえない。その状況が何年も続く。離婚してからも続く。これが共同親権の実態なのだとわかっていただけるでしょうか。
エンドレス(永遠)に支配が続く。社会が病んでいく。女性が活躍できやしません。
地域社会も裁判所もDVの構造をわかっていない。
DV被害者は4人に1人と言われます。ジェンダーギャップ指数が世界125位の中で、共同親権はあり得ないんです。今の単独親権の法律でも全然オッケーです。安全で先駆的だと思います。
DVと虐待は(共同親権から)除外するというけれども、地域社会がDVの実態を分かってからにしてください。裁判官も議員もまず、DV防止についての研修を受けて下さい。
このままでは命の危険に誰が責任を取るのでしょうか。

「子どもを守る法律がない」

DV被害当事者 Fさん)

先月離婚が成立しました。家を出て5年8カ月、裁判をいくつも、いくつもしてきました。
相手方はそれを「虚偽DV」「連れ去り」と非難してきましたが、相手方が何かにつけ、「離婚するぞ」と脅し、離婚調停の申し立てが届いたことから、私の人生が変わったのです。
幼い子ども2人を抱え、調停から裁判までをどのようにサバイブするのかをずっと模索してきました。
その中で弁護士に出会って初めて、私はDVサバイバーだとわかりました。本人すら自分が受けていたことがDVだとわからないことがあるのです。
その後もメディアや国会議員の力を借りて、どんどん相手方からの圧力が強くなりました。今、彼は海外で暮らし、私は子ども2人と日本で隠れながら暮らしています。
日本にはまだ子どもを守るための法律が制定されていません。相手方の国は、被害者に焦点をあてた子どもを守る養育制度が制定されています。しかし、今、その海外から、裁判で訴えられるという問題に直面しています。海外でやり直し裁判をさせられようとしているのです。
諸外国のような共同親権にすべきだと、日本で議論されている最中だからこそ、お前は外国で裁きを受けるべきだと元夫から言われています。
離婚裁判が終わった今も、私たち親子には守られている感覚はありません。養育費など、すべて裁判で決められましたが、払われていません。元夫から脅迫される生活が続いています。
どうか、共同親権から養育費と面会交流を分けて考えてください。うちのように元夫側から面会交流の申し立てがされていない場合は、そもそも面会交流ができないのです。しかし、それは単独親権のせいだと相手方は今でも主張しています。
ひとり親のもとにいる子どもたちが、同居親を応援していることを相手は知りません。
私の人生はドラマより過酷です。私と子ども達がどんな気持ちで虐げられて生きているのかを知れば、共同親権を進めて行くことはできないと思っています。どうかサバイバーの親子を救ってください。
これまで自治体の方にも住民票を隠してもらったり、弁護士や支援者から多くの支えを得たりしてきました。恐怖の気持ちとフラッシュバックを抱えながら今ここにおります。

参議院で審議にあたる国会議員らに、共同親権の廃案を求める署名が手渡された=東京都千代田区

「急迫かどうか」曖昧さ残る

会場では、医療従事者からの懸念の表明が代読されました。

医療従事者(産婦人科医)

離婚後の共同親権の検討において、DV虐待がある場合は除外するとのことですが、その判断ができる体制が整っているとは到底思えません。4月から改正DV法が施行され、精神的暴力により心身に害が及ぶ場合も保護命令発令の対象になります。しかしその判断基準は「通院加療していた医師の診断」によるとされました。沖縄県で中絶の配偶者同意を巡って、DVの判断をした医師の供述について、裁判経過で加害者が「虚偽DVだ」と主張しました。最高裁が上告棄却し、医師に責任がないと確定するまで3年以上を裁判に費やしました。
また、「虐待(面前DV)によるPTSDのため面会交流は子どもの不利益になる」と、裁判所の求めに応じて診断者を書いた精神科医が、別居親から損害賠償請求を受け、最高裁で上告が棄却されるまで長い時間と労力を裁判に費やした事例もあります。
客観証拠を提出できる立場にある医師が、精神的DVや虐待の判断のために診断書を書くことには裁判の覚悟が必要で、簡単に協力は得られなくなるでしょう。
 日本小児科学会、日本産婦人科学会、日本法医学会などから(共同親権の)慎重な検討を求める要望が出されています。子どもの医療について、別居親の同意を得なかったとして、滋賀医科大学が訴えられ、損害賠償が認められたケースがあります。この別居親は子どもへの面会交流が認められないと家庭裁判所に判断されていたにもかかわず、別居親に同意を得るべきだ、と地方裁判所が判断しました。
 裁判所の判断で、面会交流は認めないとしたにもかかわらず、医療同意を求めるかどうかでは、司法判断ですら曖昧さが残ります。子どもの命にかかわるような「急迫の事情」がある場合は除外するとのことですが、両親で治療方針に違いがあった場合、家庭裁判所の判断を仰ぐ時間的余裕があるとは思えません。
 産婦人科医は、医療現場でこの法改正が議論されていることすら周知されていません。このような重大な法改正が議論されていることを全く知らず、知った人は「改正は大変迷惑だ」と言っています。地方議員にも周知が届いていない実態があります。DV・虐待の診断や被害者の保護などの責務を担うのは地方自治体です。地方議員はもちろん、国民的議論なく法改正を行うことに疑問を呈しています。地方の福祉の事情がわからない国会議員のみで拙速に法改正を行うのはなぜなのか。

集会には法務省、内閣府、外務省、こども家庭庁の官僚や国会議員十数人が参加しました。

国会議員から出た主な意見は次の通りです。

・1番の問題は、葛藤を抱えて対立がある時の弊害。
・両方の真摯な合意がない限り、共同親権しないということにすべきだ。
・(子どもの)居住地の決定は共同親権の範疇。それでは引越しもできなくなる。
・高等教育の支援についても、双方の両方の収入証明書をもらわないといけなくなる。養育費はもらわなくても収入合算される。
・監護権者を決めて、子どもを保護すべきだ
・家庭裁判所の体制も整えず、(法案成立に向けて)突っ走るのはおかしい
・選択的夫婦別姓は「いろんな意見があるから」と実施していないが、共同親権は意見が真っ二つに分かれているのに、どうして拙速に法案を通すのか
・共同親権になった場合、単独で親が判断してできる行為は何か。わからないなままだと一方の親が訴えて損害賠償訴訟に発展する。

参議院での審議は5月も続く見込みです。