離婚経験者の約6割が、元配偶者から不本意な要求を受けたり、養育費の支払いがなかったりなど、離婚後のアビューズ(虐待・嫌がらせ)を受けていることが、「ちょっと待って共同親権プロジェクト」と「離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会」の共同調査でわかりました。
5月14日夜の「はて? 誰のための民法改正? #共同親権を廃案に オンライン国会前集会」で発表されました。
今国会で離婚後の共同親権導入に向けた法改正が審議されています。
しかし、そもそも離婚した夫婦が対等に話し合える関係にあるのでしょうか?
この調査はそれを明らかにするため、離婚を経験し、15歳以下の子どもがいる30〜40代の男女それぞれ500人を対象に、5月8日〜10日にかけて株式会社クロス・マーケティングがインターネット上で行いました。
法的な嫌がらせ7.2%、性的な嫌がらせ4.0%
現在の状況は「離婚ずみ」72%、「離婚前別居中」28%。
離婚した理由が「DV・虐待にあたるもの」は40.2%。また、「話し合いができない」23.6%、「子どもへの悪影響があった」15.7%でした(複数回答、3つまで)。そもそも子どものことに関して話し合いが成立しない両親が多いことがうかがえます。
全体の58.2%が離婚後アビューズに遭っていました。7つのカテゴリーに分け、複数回答で、経験したものをすべて挙げてもらいました。
- 「精神的なこと」=人格を否定する言動、不快な思いをする連絡、監視・つきまとい、養育費などの交換条件に不本意なことを要求
- 「身体的なこと」=殴る、蹴る、物を投げつける、突き飛ばすなど
- 「経済的なこと」=養育費不払い、仕事の妨害など
- 「性的なこと」=セクハラと感じる言動、性的な行為の強要など
- 「社会的なこと」=悪評を流す、個人情報をさらす、学校への押しかけなど
- 「法的なこと」=「訴える」と脅す、裁判所への不当な申し立て、裁判での虚偽の主張など
- 「面会交流のこと」=子どもの意思・体調・予定よりも自分を優先する、子どもを危ない目に遭わせるなど
アビューズの経験(複数回答)は多い順に「精神的なこと」(経験者の35.3%)、「経済的なこと」(同21.7%)「面会交流のこと」(同15.4%)。
裁判所への濫訴などの法的な嫌がらせも7.0%、性的な嫌がらせも4.2%が経験していました。
こうした嫌がらせが子どもの面前でもあった人は、経験者の73.9%と高い比率に上ります。
離婚・別居の形態別に見ると、アビューズの経験比率が最も高いのは「別居中」で73.8%、「裁判離婚」67.4%、「調停離婚」64.8%と続きます。話し合いに基づく「協議離婚」でも47.2%がアビューズを経験していました。
また、離婚原因が「DV・虐待」だった層ではアビューズがあった人が75.4%と高い率ですが、そうではなかった層でも45.7%がアビューズを経験していました。
アビューズの種類と離婚原因のクロス集計では、すべてのアビューズで、「DV・虐待あり」が「DV・虐待なし」を上回り、特に性的被害では「DV・虐待あり」が8.0%と、「なし」の約5倍となっています。
自由記述では、「話し合いができない状態」について、「毎日、言い争い」「会話が成り立たない」「将来のビジョンが合わない」「何をしてもけんかになる」(以上、すべて男性)、「子どもへの悪影響」について、「子どもの貯金まで使われた」「無関心で世話をしない」「子どもに理不尽な接し方をする」(以上、すべて女性)などの意見がありました。
離婚後アビューズの具体的な状況については「夜何度も電話をかけてきて怒号を浴びせられた」「子どもがいるのに性的に求められた」「キャッシュカードの紛失届を出されて使えなくされた」。子どもとの面会交流に関して、「自分の都合だけ押しつけて子どもの都合は無視された」「子どもが嫌といっていることをやめなかった」「子どもの前で私に罵詈雑言を浴びせた。子ども達はおびえていたのに、構わず何度も私をこきおろした」などの記述がありました。「申し訳ございません。思い出すと辛いです」と詳細の記入を避けた人も少なくありませんでした。
3人に1人が、共同親権法案「知らない」
離婚後共同親権の導入を含む民法改正案については「知らなかった」が33.0%、「内容はよくわからない」21.3%。
自由記述を分析したところ、「期待」が7.2%、「不安・否定」が37.6%にみられた一方、「回答なし」「わからない」の合計が過半数を占めました。共同親権の内容について「知らない」「わからない」と答えた層とほぼ同じ割合です。
「期待」では「連れ去り防止になる」「(親権において)女性優位の是正」、「不安・否定」では「離婚して平和に暮らしているのに、脅かされる」「家庭裁判所がDVや虐待を判断できないのではないか」「子どもが行きたい高校に行けなくなる」などの意見がありました。
和光大学の熊上崇教授は調査結果を受け、3点の提言にまとめました。
1. 両親が合意出来ない場合は少なくとも共同親権にすべきではない。
2. (単独で親権を行使出来る場合を定めた)「急迫の事情」という文言は修正するべきだ。
3. 監護者指定を必須とすべきだ。
また、衆参両院での審議を基に、斎藤秀樹弁護士が民法改正案の3つの瑕疵について、指摘しました。
1.単独で親権を行使できる者を法案では「父母」としている。これでは片方が許可し、片方が取り消すという無限ループ問題が起きてしまう。法務省は国会で「現に監護する者」と言い換えているが、条文そのものを変えるべきだ。
2. 共同親権か単独親権か、同居親が監護権者であるかどうかが、第三者にはわからない。医療、学校、保育などの関係者はどうやって判断するのか?訴訟リスクを考えて、身動きが取れなくなる。
3. 養育費未払い対策が入っていない。罰則や付加金(追徴金)などの制度を設け、公による立替払いと取り立てをセットで導入すべきだ。
4月3日に衆議院で参考人として意見を述べたDV被害当事者の斎藤幸子さん(仮名)は「私の参考人質疑の時に、2列目の自民党の議員は誰も出席していませんでした。参議院の山崎菊乃さんの時には、傍聴席の人が嘲笑していました。これは異常であるとお感じになりませんか? 水俣病患者と環境省の関係に似ています。真摯に向き合う気がないのです」と語りました。
5月7日に参議院の参考人質疑に立った全国女性シェルターネットの山崎菊乃さんも「この法案は加害者に加勢する法律。支援機関も混乱します。加害者に訴えられて敗訴するかもしれません。被害者の相談に乗って、それはDVだから避難する必要があると言ったら、共同親権行為の侵害と言われるかもしれない。訴訟というリスクを負ってまで行政は被害者を守ってくれるのでしょうか。DVは証明できません。廃案にしてほしいと現場から思っています」と訴えました。