多くの不安抱えたまま、共同親権導入する法律が成立

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とうとう離婚後の共同親権を導入することになったらしい・・・


離婚後の共同親権を導入する民法改正案が5月17日、参議院本会議で可決・成立しました。自民、公明の与党以外に、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、教育無償化を実現する会などの賛成多数によるものです。

父母の協議で共同親権か単独親権かを決めて、合意できない場合は家庭裁判所が判断し、共同にするかどうかを決めることになります。

参議院の審議では、与野党から法案についての不備が指摘され、実務の上で、安心、安全に運用するには課題が多く残っていることがあらわになりました。

今回の法案成立を巡っては、離婚後に共同親権になることで「できなかった面会交流ができるようになる」「払われない養育費が払われるようになる」といった誤解に基づく情報があらゆる形で流布されました。また、過去に離婚したケースにも法律が適用されることも、周知が徹底されていない状況にあります。

法務省の説明によれば、離婚時に「将来のDVの恐れ」がある場合は単独親権にするとのことですが、それについては、誰かが的確に判断してくれるという保障はありません。すでに離婚していて、DV被害の証拠が残っていなかったり、加害者が「反省している。もうしない」と話したりするケースでも、被害者が望まなければ、共同親権を避けられる救済方法が必要です。

親権がある両親の収入を合算して支給額が判断される教育無償化の支援、両親が合意できない場合の子どものパスポート取得など、子どもの権利をめぐる議論が十分に尽くされないままでのスピード成立となり、離婚しているかどうかにかかわらず、多くの不安の声が聞かれます。改正された法律は26年には施行される見通しで、すでに離婚している人たちにも適用されます。

16日に緊急集会「法案通過残念だが、さらに戦い広げることに」

参議院の法務委員会で法案が可決された16日の夜、共同親権に反対、慎重な姿勢をとる弁護士や当事者たちが、オンラインでの「国会前集会」を緊急で開催しました。

成立を受けて落胆する声も聞かれましたが、参加者は、当事者たちが表に出て活動に加わりDV被害の実情を訴え、国会審議や世論の流れを大きく変えたことなどを讃え合い、活動の成果を共有しました

弁護士の太田啓子さんは、一連の共同親権導入をめぐる経過について振り返りました。

「共同親権は私の仕事にも本当に直撃するなと思って関心を持ち続けてきました。法案可決は残念ですが予想の範囲内であり、他方においてこの法案への懸念の広がりは私の期待と予想を超えていたと思っています。まだこの闘いは全く終わらない。今まで得られたものを生かして、今後さらに闘いを広げていくということになるかなと思っています」

太田啓子弁護士

なぜ、子どもの権利を制限する法案が通ったのか

和光大学の熊上崇教授は家庭裁判所の元調査官だった立場から、実務の経験に基づく意見を述べました。

「今回、共同親権の法案が通った参議院の法務委員会に非常に怒りと落胆を感じております。誰がこの法案を望んでいるのか。また子どもにとって良いのだろうか、と。

『子どもが行きたい学校に行け、受けたい医療を受ける』

そういう子どもの希望を伸ばすのが社会の役割であるはずなのに、全く逆の方向。なんで子どもをいじめるような、子ども(の権利)を制限するような方向の法案が通ったのか。非常に怒りを感じております」

和光大の熊上崇教授

対抗していく知恵を一緒に出し合いたい

5月7日の参議院法務委員会で、当事者、支援者の立場で、参考人として話した全国女性シェルターネットの共同代表の山崎菊乃さんは審議を振り返り、今後の展望を語りました。

「当事者として支援者として、この法改正がどれだけDV被害者とその子どもたちを脅かすのかというのを、私なりに一生懸命伝えたつもりでした。

それなのに、自民党からも慎重や反対の質疑が出ていたのにもかかわらず、1日でも1秒でも早く法案を通してしまおうみたいなそういう勢いで、(法案が)法務委員会を通ってしまったことについては、政治に対してすごく失望しました。

(法案は)通ったけれども、実際私達の現場の中でいろいろな方法を使って、いろいろな解釈を使って、対抗していく知恵を、皆さんと一緒に出し合っていけたらいいなって思っています」

山崎菊乃さん

気持ちが落ちて、動悸が止まらなかった

 4月3日の衆議院法務委員会で、参考人として、当事者の立場から話をした斉藤幸子さんも法案通過の衝撃について語りました。

「本日(参議院法務委員会で)採決になったっていうニュースを速報で見たりして、気持ちが落ちてどうしようって。本当になんかもう動悸が止まらなかった。

法務委員会の質疑について確認するのすら、つらかったんですが、その中で得られた成果もある。共同親権を安全に運用するにことについて、不備がまだあるんだっていうことが、ちょっと希望が残ってるところがあるので、ぜひとも皆さんと頑張っていきたいと思ってます」

画面を消して登壇した斉藤幸子さん

当事者の行動で雰囲気が変わった

さらに、弁護士の斉藤秀樹さんは、国会審議と当事者たちの勇気ある行動が世論を動かしていった軌跡について語りました。

斉藤秀樹弁護士

「ついに、この日が来てしまったかなというふうには思っていますけれども、最初は野党だけかなと思ったら、参議院の方で与党の議員もすごく頑張ってくれて、いろんな質問、そして政府側からの回答を引き出したということがありました。

それは我々が今後実務として運用していく中でものすごく良い材料を、宝物と言ったら言い過ぎかもしれませんが、それに近いものが得られたのかなという風に思っています。それをどんどんかすようにしなければいけないかなと思っています」

斉藤弁護士は2016年に超党派の国会議員で結成された「親子断絶防止法議員連盟」が、共同親権の議論の始まりではないかと振り返りました。議連の会長は保岡興治氏(元・自民党衆院議員、故人)、副会長は泉健太氏(現・立憲民主党代表)、事務局長は馳浩氏(現・石川県知事、元・自民党衆院議員)、幹事長は漆原良夫氏(弁護士、元・公明党衆院議員)でした。斉藤弁護士はシェルターネットの一員として、当時、総会に出席した経験があるといいます。

「その時は本当に何が何だかわからなかったんですけれども、そこから今に至っている、と。ただ、1年ぐらい前まで、(共同親権導入反対の)ロビー活動をしても、学者と弁護士ぐらいしかいなかった。当事者の人たちが多く参加するようになって、すごく雰囲気が変わりました。

(当事者のみなさんが)熱意を持って、ロビー活動を一生懸命やってくださっているし、スタンディングで外に出てお話をするっていうことが行われるなんて全く思っていなかったです。やっぱり、それがすごく多くの人に、加速度的に『やっぱり不安な問題があるんだ』ということが伝わっていった一番大きな原動力なのかなと。

与党の方が、(参議院の法案審議について)週をまたぐことすら嫌ったっていうのは、時間をかけると何が起こるかわからない。このままどんどん反対の声がうねるようになってしまったらどうなってしまうかということを懸念したことの表れだろうと思っています。

だから本当に皆さんの熱意のある発信、そして行動というのは素晴らしいし、これをやっぱり、次に繋げるためにも、今後何もしないで待つわけにいかないというふうに思っています。どんどん私達の方からも積極的にこんな制度を作りたいんだってことは働きかける必要があるかなというふうに思っています。

そういったことも含めて多くの皆さんの力が今後も必要だと思うので、ぜひ一緒に頑張っていきたいと思っています」

「法案を抽象化」「子連れ別居への刑事告訴の推奨」など報告

その後、集会では、登壇者から

①   拙速に法案が両院を通過した背景に、推進派の動きが埼玉の留守番虐待防止条例がSNSで炎上し廃案に追い込まれたこと経験があること

②   法案を抽象化させて、どうとでも取れる形にして提出したこと

③   「子連れ別居」をした人に対する刑事告訴の推奨と実際に告訴が増えている疑いがあること

などについても報告されました。

報告をする岡村晴美弁護士

3団体が共同声明「自治体などに伝達、弁護士など職能団体と連携」

共同親権導入に反対する「#ちょっと待って共同親権プロジェクト」と「離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会」「共同親権について正しく知ってもらいたい弁護士の会」は5月16日、共同声明を出しました。

声明文では、審議の過程において、法務大臣や国会議員らが、「現在の家庭裁判所の人的物的体制の不十分さや実務の運用等を正確に把握しているとは考え難いこと」、「親権と親子の面会交流に直接の関係はないにもかかわらず関係があるように誤解していること」、「子どもを連れて別居しただけで当然に親権者や監護者に指定されるわけではないこと」などを十分に理解していないことが明らかになったと指摘。

また、離婚後の法手続きで、元配偶者に対する嫌がらせが行われている実態についても対応策が準備されていないと批判しています。

一方で、法務大臣の5月14日の答弁、「合意ができない、コミュニケーションもとれないということになれば、必ず単独親権にしなければならない」を引き、「このとおり運用されるのであれば、今回の改正家族法が施行されても、現行法における親権者決定の運用との違いはない」と一定の評価をしています。

今後は、改正法施行に向け、「弁護士、支援者などと付帯決議や答弁を共有し、自治体や行政機関に伝達、弁護士会など職能団体とも連携していく」と結んでいます。

声明文はこちらからお読みください。

https://note.com/kyodo_shinpai/n/n1078ee84be22

緊急集会の詳報は、続報で掲載する予定です。

19日夜に緊急でコモンズトークを開催予定

DV被害者、当事者の立場から、今国会の参考人として話された山崎菊乃さん、斉藤幸子さんと斉藤秀樹弁護士をお招きし、改正法成立までの国会審議を振り返り、施行までにするべきことについて共に考える「コモンズトーク」を19日夜、緊急開催します。ご参加ください。

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