「あなたがそんな格好してるから」? その「加害性」に気づいてほしい

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報道に胸がざわつく

 7月に札幌・ススキノで起きた殺人事件。ホテルの一室で首を切断された男性の遺体が発見されるという猟奇的な事件は全国的な関心を呼んだ。そして、その男性と交流があった女性とその家族が被疑者として逮捕されると、さらに事件への注目度は高まった。

 被害者の男性はよく女装でススキノのイベントに参加していて、そこで被疑者の女性と知り合ったらしい。女性は被害者から暴力を受けていたらしいー。
そんな情報をテレビや新聞で見聞きしながら、胸がざわついた。嫌な予感がした。

 しばらくして、知人の女性からSNSでメッセージが届いた。

 「あの事件で、LGBTQへの偏見が強まるのではと心配でならない」という。ため息が出た。

外見で判断し「嫌悪感」あらわに

 知人とは取材を介して知り合った。レズビアンの女性で同性パートナーと暮らし、地域でLGBTQへの理解を求めて長年活動を続けている。これまで想像を絶するような差別や偏見と闘ってきたのだろうが、私が知っている彼女はいつも笑顔を絶やさず、どんな時も理路整然と自身の考えを述べる。強くて温かい人だ。

 とにかく会おうと声をかけて、数日後、話を聞いた。

 知人は、「単なる女装好きの人」と「トランスジェンダー」とは明らかに違うのに、あの事件で「トランスジェンダーだと偽った男性が女性に暴力をふるい、恨みを買われて殺された」という噂が広がれば、「トランスジェンダーという言葉への偏見が助長されるかもしれない」と心配していた。

「それだけじゃなく、これは私自身の問題ともつながる」と彼女は言葉を続けた。

 彼女はいつもボーイッシュなスタイルだ。その外見から、これまでも「女子トイレに入ってほかの利用者からぎょっとした顔をされたことがある」という。「それが最近さらにひどくなり、顔を睨まれたり、明らかに嫌悪感を示されるたりすることが増えた」という。

 「私でそうなのだから、トランス女性はもっとひどい対応をされ、トイレを使うことそのものを躊躇することもあると聞く」と嘆いた。

「あなたがそんな格好してるから」?

 今回の事件だけでなく、6月に成立したLGBT理解増進法の議論の中で、法制定に反対する人たちから「女子トイレや女性風呂をトランスジェンダーの女性が使用すると性犯罪につながる」との声が上がり、トランスバッシングが広がったこともまだ尾を引いている。

 知人は言った。「これって、痴漢や性暴力被害にあった女性が周囲に『あなたがそんな恰好をしているのが悪い』って言われるのと一緒じゃない?」と。

 そうなのだ。男性から女性への性犯罪が起きると、被害を受けた女性が「落ち度があったのでは」「スキがあったのでは」と非難されることはいまだよくある。もちろん、犯罪を行った方に非があり、被害者に責任はないのに。これとトランス女性へのバッシングも似ている。「あなたがそんな恰好をしているから、誤解されるのだ」と。

 知人と同様、事件後、さらに身を縮めるように暮らさざるを得なくなったLGBTQの当事者たちは多くいるのではないか。そのことを私たちは想像できているだろうか。

脅かされるトランス女性の人権

 性自認も性的指向も努力で変えられるものではない。LGBTQへの差別や理解の欠如は人権侵害につながる問題で、女性を偽装して女性トイレを使ったり、女性に暴力を振るったりする男性犯罪者の問題と同等に量るべきものではない。

 LGBT理解増進法は、国に基本計画や指針を策定するよう明記しているが、自民党有志による「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」が「女性の不安」を理由にトランス女性の女子トイレや女性風呂の使用を制限する発言を繰り返している中、国はまだ具体的な案を示せていない。

 日本では2025年に大阪で関西万博が予定され、札幌でも冬季オリンピック招致に向けた動きが進む。世界規模の祭典の開催や招致をアピールし、大がかりな箱ものを造るその前に、まずこの国が多様性を尊重し、海外から人を呼び込めるような社会になっているか、足元を見つめ直す必要があるのではないだろうか。

 今のままで、世界各国から訪れる性的少数者の旅行者やアスリートに対し、理解ある対応が取れるだろうか。

 人権問題は人の尊厳にかかわる。世界に誇れる国であるための、その一丁目一番地が進んでいないことを私たちは自覚しなければならない。
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