離婚後も父母双方が子どもの親権を持つ共同親権の導入に向け、法制審議会が近く要綱案のたたき台を発表する。両親の離婚を経験した子どもたちは、この共同親権についてどう思っているのだろうか。共同親権の慎重審議を求める署名活動などを展開している「#ちょっと待って共同親権」プロジェクトが21日、オンラインで勉強会を開いた。
現在、先進国の多くが共同親権となっているが、両親の家を行き来する子どもの負担は大きく、面会中の子どもの殺害事件などが起きていることから、オーストラリア、イギリス、カナダなどで家族法の見直しが進んでいる。
別居親に「一切、会っていない」約半数
同プロジェクトは今年7月末までの約40日間、オンラインでアンケートを実施した。両親の離婚を体験した「子ども(成人後を含む)」47人と「ひとり親」367人から回答があった。
「子ども」の6割は19歳以下で、若い世代からの回答が多かった。別居している親との交流について聞いたところ、「一切、会っていない」が48・9%と最多で、「月に1回以上会っている」「普段の生活において電話やSNSなどで連絡をとりあっている」が、それぞれ12・8%、「年に1〜数回会っている」が10・6%だった。
8割「子どものためにならない」
アンケートでは、法制審議会での議論を踏まえ、「共同親権が法で定められれば、例えば、子どもの進学先を決める時、病気などで入院をする時、引っ越しをする時、そして日常の些細なことまで、同居親が別居親に連絡をとり、双方が合意する必要があります。意見が対立すれば、家庭裁判所での判断となります」と説明。その上で、「共同親権導入が子どものためになるか」を聞いた。「ならないと思う」66・0%、「どちらかといえばならないと思う」12・8%で、全体の約8割が「子どものためにならない」と感じていた。「なると思う」は21・3%だった。
「なると思う」には「どちらかが亡くなった時の手続きや遺産相続などが楽になりそう」との意見があった。
「離婚後も虐待から逃れられない」
一方、「ならないと思う」を選択した人には、自身のDVや虐待体験に基づく記述が目立つ。
「父親はDV虐待を行っており、本人もその事実を認めていたが、それでも裁判で親権が認められた。親権が父親にあることなどから、私は面会交流を拒否することができず、成人するまで父親の都合で面会交流が行われた。共同親権が原則として認められた場合、私のように離婚後も虐待から逃れられない子どもたちが今以上に増えてしまうと思う」
「両親の不仲を長期的に見せられるのは精神的に辛い」
親権を主張する親が借金などで行方不明になり、債権者が子どもの所まできたケースや、父親からの性的虐待を受けていたというケースもあった。
7割、両親の対等な話し合い「不可能」
「あなたの両親は離婚後、進学や部活への参加など生活上の細かな事柄について対等に話し合って決めることができる(できた)と思うか」には、72・3%が「不可能だと思う」と答えた。
最後に法制審議会に伝えたいことを聞いた。
「両親が離婚する時点でより多くの時間を過ごした(子どもに関わった)方の親の意見を聞きつつ、子どもの素直な気持ちを汲んでほしい」
「親の権利みたいになっています。親の責任ではないですか?『親権』は子どものための権利だということをよくよく考えてほしい」
「共同親権という発想そのものに反対しているのではない。子の福祉に適う親との交流が子の精神の発達に良い影響をもたらす事実に異論はない」と前置きした人は、DVの後遺症で精神疾患になった母と暮らす経験を元にこう続けた。
「日本では女性・母親の立場が低く、母親の自己犠牲の上に子どもの成長が成り立っており、家父長制から脱却できていない現実がある。この背景の違いを勘案せず、国外への体面や家父長制を継続させようとする有識者の顔色をうかがい、形ばかりの共同親権を導入することには強く反対したい」
「日本はまだ、DVを見抜けていない」
同プロジェクトのキャンペーンスタッフのSさんは、2001年に配偶者暴力防止・被害者保護法(DV防止法)ができる以前に、DV加害者の父から暴力を受け、母、姉妹と逃げた経験を持つ。DV防止法ができて22年が経つが、共同親権をめぐる法制審の議論をみていて、「日本社会はまだ、DVを見抜けていない」とわかったという。
逃げても逃げても母を追いかけ
父は、母と子どもの顔を叩く、殴る、物を壊すなどの暴力をふるった。生活費を渡さないなど経済的な虐待もあった。妻と子どもの自発的な行動は許さず、「俺のおかげで生活できている」と毎日言った。母とSさん姉妹はのべ3回家から逃げた。父はそのたび娘を口実に連れ戻した。Sさんが警察に駆け込んだ時、警官は「親だから大丈夫」と言って、取り合ってくれなかった。結局、父と母は別居したが、姉と自分は父と同居することになった。そして、その後も父の、母への執着は続いた。
「逃げても逃げても母を追いかけ、そのために私たちを人質にした」とSさんは受け止めている。共同親権はこうした「人への執着を認める法律」に見える。
共同親権を求める人の中には、配偶者だけじゃなく子どもに執着している人もいる。だが、「子どもは会いたくないかもしれない」とSさん。「なぜ、親が幸せになることが優先されるのでしょう?親の幸せと子どもの幸せは同じではありません。国会議員のみなさんには、ぜひ、子どもの立場に立った法制定に取り組んでほしい」
定期的な交流、望まない子が過半数
東洋大学の村尾祐美子准教授は、法務省の「未成年期に父母の離婚を経験した子の養育に関する実態についての調査」(2021年)を独自に分析した。その結果も勉強会で発表された。
法務省の調査対象は1000人(20〜30代の男女それぞれ250人ずつ)。調査時点で両親の不仲理由がわかる606人を対象に、配偶者や子どもへの身体的・精神的な暴力があった「暴力や虐待」群(31・2%)と「それ以外」群(68・8%)に分け、面会頻度や重要事項の決定について差があるかどうかを見た。「暴力や虐待」に性的虐待や経済的虐待は含まない。
不仲理由にかかわらず、別居親との月1回以上の定期的な面会を希望していたのは「暴力や虐待」群で42%、「それ以外」群で36%にとどまった。「気が向いた時に会えればいい」「あまり会いたいと思わなかった」「まったく会いたくなかった」など、定期的な交流を望まない人が過半数を占めた。
未成年だった自分の住所、教育や就職、医療について誰が決めるのが理想かという問いには「同居親」が最多で、43―50%を占めた。「単独の親が決める」を理想とする人は50―53%、共同親権的な「父母が相談して決める」は20−27%だった。
研究者「子どものニーズ重視を」
父母の不仲原因が「暴力や虐待」である場合の方が、別居直後も2〜3年後も、「子と別居親の関係は非常に悪い」と回答する率が有意に高かった。一方で、「それ以外」群より面会は定期的でかつ頻回だった。子どもが別居親との交流について、「少し多すぎた」との答えも10・6%にのぼった(「それ以外」群は3・8%)。
また、同居親が父親の場合、重要事項の決定について、別居している母親の関与を求める割合が高かった。
村尾准教授は「父母の不和の理由が『暴力や子への虐待』の場合、別居親の交流要求に応えることが子の最善の利益とは言えない状況があると、かつての子ども自身による評価からわかった。『単独親権か共同親権か』だけではない子どものニーズをより重視すべきだ」とみている。
9月8日夜、オンラインイベント
#ちょっと待って共同親権プロジェクトは9月8日午後8時から、オンラインイベントを開く。ゲストは憲法学者の木村草太氏、国際民法学者の小川富之氏、弁護士の岡村晴美氏、NPO理事長の廣瀨直美氏。司会進行はジャーナリストの竹信三恵子氏。
当日のイベント配信URLはhttps://www.youtube.com/watch?v=dumShEKiGHQ
(生活ニュース・コモンズ編集部)