シリーズ都知事選「小池都政チェック」 住民知らぬ間に”土地をタダ貸し” “木の伐採”も 千代田区の今

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千代田区では住民の声が届かず、再開発や木の伐採が行われているって本当?

 7月7日の投開票日に向け、東京都政の課題について検証する「シリーズ都知事選」。

 東京都の中心部にある千代田区ではいま、住民への十分な説明と理解を得る手続きを経ずに、企業と行政による問題のある再開発計画が次々と進められています。東京都心の再開発は当該自治体だけの問題ではなく、東京全体の問題です。

 地区計画に反する高層ビルの建築、不透明な不動産貸与。イチョウ並木の大量伐採。今年に入って官製談合事件も続々と判明しています。「知らない間に決まっている行政」に異議を唱える住民たちの声をもとに千代田区の現状を取材したライターの吉田千亜さんと生活ニュースコモンズの吉永磨美記者が報告します。

企業優先のまちづくりに疑問

 昼夜の人口差が約90万人の東京都千代田区は、実は23区で最も人口が少ない区。有権者数わずか5・5万人の土地で、「ミッドタウン日比谷広場」「秋葉原」「日テレ通り」「神田警察通り」など、再開発の深刻な問題を複数抱えています。

 「東京都は、企業が主導してまちづくりを行なっています。企業の利益が優先され、企業と行政が癒着して、住民が置き去りになっている。誰のための再開発なのか、ということは問われるべき重要な問題です」

 そう話すのは、この千代田区の再開発に関わる多くの裁判に住民側代理人として関わる弁護士、大城聡さん。現職で3選を目指す小池百合子氏は「争点にならない」と神宮外苑の再開発を一蹴しましたが、企業と行政と政治家の癒着の温床として、再開発は東京都の大きな問題です。

大城聡弁護士

「なし崩し」の議決に区議が抵抗

 ここ数日、千代田区の環境まちづくり委員会は、建築条例をめぐり、夜中まで議論が続き、住民も連日傍聴しています。7月2日の委員会には、住民にまじって、夜遅くに日テレ社員と思われる人も傍聴。現在、環境まちづくり委員会で行われている議論は、日テレ本社跡地の再開発に賛成する区議すら疑念を抱く問題や手続きの不備が残されています。それなのに、なし崩し的に区議会での議決へ進んでいると、反対する区議たちは必死に抵抗しているのです。

 過去にも数多くの報道がされていますが、住宅地として知られる千代田区番町地区の再開発計画において、日テレ本社跡地1.2ヘクタールの土地に、賃貸用の超高層ビルを建設するという問題が浮上し、地元住民の間で賛否が分かれています。

日テレ通り(フリー素材より)

「まともにやっているとおかしくなる」

 発覚当初は新たに「高さ制限150メートルまで」の超高層ビルが建つという資料が公表され、住民の間に衝撃が走りました。その1人、住民のAさんは、こう話します。

 「知ったのは2018年でした。驚いて区(千代田区)の地域まちづくり課に問い合わせたら、『日テレさんから情報がないのでわかりません』と。でも、千代田区のホームページに(日テレ再開発のことは)掲載されているんです。それを伝えたら、ホームページから消えちゃった。千代田区の再開発については、笑っちゃうことの連続で。まともにやっているとおかしくなっちゃう……」

 「笑っちゃう」「まともにやっているとおかしくなる」のにも、理由があります。一例を挙げれば、千代田区は、今年1月に自民党の区議、嶋崎秀彦氏が再開発に関わる官製談合事件で逮捕されているのです。先月の初公判で懲役2年6か月が求刑され、来月判決が言いわたされる予定です。

 本来、この番町は「中層・中高層の住居系複合市街地及び文教地区」として、高さ制限は60メートルとされていました。これは地区計画(都市計画法に基づき、住民と自治体が話し合って決める制度)で定められていたのです。

60メートルのはずが、倍以上の150メートルの超高層ビルと聞き、「住みやすい環境が失われる」と住民たちは「番町の町並みを守る会」をつくり、約3300人分の署名を2022年2月に区長に提出しました。

その後、同年7月に、日テレの計画案をもとに高さ90メートルの地区計画変更案を千代田区が公表。本来の60メートルを反故に。企業側の理屈でいうと、建物を高くして、床面積を増やせば、ビルの持ち主の利益は上がる、それを区が後押しした形です。

「日テレも日比谷も神宮も同じ」

この90メートルの算出にも、ややこしい理屈があります。公共性のあるものを作ると高さ制限に「ボーナス」が出るという「再開発等促進区」制度を使い、ビルに「広場(=公共性のあるもの)」を作る、その代わりに、90メートルまでOKにするという理屈です。

この公共性があるとされる「広場」の面積を2500平方㍍にすると言い出したのは日テレだったとのこと。これは、つい先日の7月2日の環境まちづくり委員会で明らかにされたそうです。2500平米という数字は、「ボーナス」を逆算して容積率「700%」や90メートルといった数字ありきだったことも指摘されています。

2023年7月の千代田区都市計画審議会にて、「(新宿通りの高さ規制を上回るのはおかしいので)80メートル以下にするべき」という専門家からの指摘により90から80メートルに変更されたものの、前出の大城さんは日テレと千代田区のやり方に苦言を呈します。

「本来、公共性のある広場を作るのであれば、まずは住民の声が聞かれるべきですが、『容積率を上げるために公共性のある広場を作る』というのであれば、本末転倒。こういった企業主導の再開発は住民の声は無視され、日テレも日比谷も神宮も同じです」

今年3月に開かれた区の都市計画審議会では、この日テレ再開発について、「意見の対立により地区住民を二分するような事態が長期にわたって継続していること」を望ましくないとし、「すべての関係者がこの問題に関し前向きに話し合える場作り」等、4つの項目を区に求める付帯決議が可決されています。3ヶ月以上が経った現在、「実際には付帯決議は履行されていない」「今後の具体的な実効性も担保できるものがない」という声も住民からあがっています。

企業への土地無償貸与は説明なし

弁護士の大城さんが指摘した「日テレも日比谷も神宮も」の「日比谷」の問題、これも裁判になっています。

千代田区が、区有地と建物1990㎡、20年間、225億円相当を、三井不動産等が設立した一般社団法人日比谷エリアマネジメントに無償で貸し出しする契約を締結していた問題です。それを見直すことを求める住民らが、是正しない樋口高顕区長に対し、違法確認を求める裁判を起こしています。この区有地の無償貸与ついては、適正な手続きが軽視され、区議会にも区民にも一切の説明はありませんでした。

実はこの無償貸与問題、石川雅己前区長が、三井不動産系デベロッパーから、「事業協力者住戸(一般の人は購入できない)」枠でマンションを購入していた問題から発覚しています。

区議会の百条委員会では、「(高さ制限の緩和の)許可行為の見返りに(マンションが)優先的に販売されたのではないか、という疑いをぬぐい去ることはできない」と指摘が出ています。百条委員会とは、自治体の事務に関して疑惑や不祥事があった際、事実関係を調査するために地方議会が設置する特別委員会です。同時に、無償貸与についても、「千代田区に帰属すべき収益を毀損する結果を招いた」と結論づけ、報告書に明記されました。しかし、現在もそのまま無償貸与され続けています。

裁判なければ住民は知らなかった

前出のAさんは「この日比谷ミッドタウンの無償貸与の問題は、住民は本当に何も知らされませんでした。区議さんの一部が知って、区議のOBや現区議の小枝さんたちが声をあげて明るみになり、裁判にもなりましたが、それがなければ、知ることもなかったんです」と話しています。

日比谷ミッドタウン(フリー素材より)

この無償貸与問題は、他にも。千代田区が四番町の区の認可保育所と児童館の仮施設が建てられた約1400平方メートルのこの土地を、日テレから無償で借りているのです。金額でいうと、年間1億円以上相当。これも石川前区長時代に起きたことで、「容積率緩和のバーターではないか」と、議会でも何度も追求されています。

政治家と行政が手を組めば何でもできてしまう

これらの千代田区の複数の問題に対し、区議の小枝すみ子さんは「デベロッパーと政治家と行政が組んだら、なんでもできてしまう」と懸念。過去の流れをみても、千代田区には癒着問題がとにかく多発しています。「過疎地」は企業や国策に狙われやすい傾向がありますが、都心の「過疎地」である千代田区でも、これらは起きているのです。

小枝すみ子区議

「千代田区民の声を届ける会(千声会/代表 堀義人)」は、「リコールも辞さない」という覚悟で「千代田区長への7つの要望」を発出し、区民の声に耳を傾けるように求めていますが、樋口区長からは特になんの反応もありません。

その樋口区長は私の政治の原点は、大学時代、当時衆議院議員だった小池都知事の地元の事務所(兵庫にある小池百合子事務所)でさせていただいたインターンシップ」と述べるほどの小池氏の側近。

Aさんは「何事も『知らぬ、存ぜぬ』で通すところは、小池さんと樋口さんは似ている」と話しています。

次々と官製談合事件が発覚

千代田区では、今年に入り、続々と官製談合事件が発覚し、区の関係者の逮捕や書類送検、懲戒について相次いで報道されています。

まず、今年1月には区立お茶の水小学校の改築工事の入札を巡って、入札の最低制限価格などの入札情報を漏らした元区議と元行政管理部長が警視庁に逮捕・起訴されました。

4月には、同区民館の「神保町ひまわり館」の設備工事の入札をめぐる事件が発覚。官製談合防止法違反で、現職の経営政策部参事ら3人が警視庁に書類送検されました。区のホームページによると、この事件で、区はこの3人を含む4人の区職員を懲戒処分(停職)しています。

元行政管理部長は6月に有罪判決を受けています。

住民訴訟中でもイチョウを伐採

「木を伐るな。木を残せ」

千代田区が区道整備を目指している一ツ橋の区道「神田警察通り」で、樹齢が推定100年近いイチョウ並木の伐採工事が4月9日から4日間連続で行われました。区民らが集まって抗議する中、11本の伐採が強行されたのです。深夜のビル街が騒然となりました。

2024年4月12日午前1時頃 東京都千代田区の神田警察通り 吉永磨美記者撮影

伐採を強行しようとする区側に対し、住民らは「区長と話し合いの前に木を伐らないでほしい」と声を上げて訴え、イチョウの木に寄り添い、抱きついて抗議しました。

「どうしてこんな扱いをするんですか。ここから先の工事は中止してください。樋口区長に会わせてください。区長は一切口をきいてくれない。行っても会えません」

「話し合いをさせてください。住民は何一つ今まで聞かされなかった。イチョウ伐採のこと、一度も聞かされなかった。1月4日に張り紙されるまでは。それを、まだここまで住民を追い詰める。それならちゃんと説明してください。なんでここまでするのか」

深夜の伐採で騒然となった千代田区の神田警察通り

工事3日目の12日午前1時ごろから作業員が太い幹に「キュイーン」と唸るチェンソーを太い幹に当て、伐採を始めました。辺りに木の匂いが立ち込め、薄緑色の新芽が付いた枝もどんどん切り落とされ、引きずられ、用意されたゴミ収集車に次々と捨てられていきました。

住民が保全を求めているのは、同通り(全長約1.3キロ㍍)のうち、学士会館付近から神田警察署付近までの220㍍の歩道に面した街路樹のイチョウ30本。今回の伐採で残り12本となっています。

イチョウの伐採については、2022年7月、反対する区民10人が伐採工事は違法として、千代田区長を相手取り、工事代金の支払い中止を求める住民訴訟を東京地裁に起こし、係争中です。また、区民有志はこれまでに区長に対して、木を伐採せずに行う道路整備案を提案し、話し合いを求める要望書を提出しています。

区民ら有志は、2年前から、毎晩「木の見守り活動」を続けて伐採に反対しています。2016年7月中旬に区が伐採工事を進めようとした際に、区民から反対の声が上がって、工事が中断となったこともあります。

イチョウの木を守るために抱きついたり、座り込みをしたりする住民たち

区民らの代理人、大城聡弁護士らによると、区民10人が2023年11月、午後8時から午前6時の間、千代田区から、今回伐採工事を実施した区間の歩道や車道の立ち入り禁止を求める仮処分を裁判所に申し立てられています。裁判所から、3月11日、工事の作業区域に限り、申し立てられた10人のうち8人の区民が、立ち入り禁止の仮処分命令を受けています。

東京都内では、再開発や樹木伐採の問題が後を断ちません。この問題について、生活ニュースコモンズは、東京都知事選の主要な候補者にアンケートで見解を尋ねました。その結果はこちらです。

東京都知事選の重要争点である都市開発問題について、日比谷公園周辺の再開発築地移転問題についても記事を掲載しています。

吉田千亜(よしだちあ) 

1977年生まれ。フリーライター。原発事故の取材を続けている。『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)で講談社 本田靖春ノンフィクション賞(第42回)、日隅一雄・情報流通促進賞2020大賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞。『ルポ母子避難 消されゆく原発事故被害者』(岩波新書)、『その後の福島 原発事故後を生きる人々』(人文書院)、近著に『原発事故、ひとりひとりの記憶──3・11から今に続くこと』(岩波ジュニア新書)。