性暴力を受けた経験がある「サバイバー」が撮影した写真をキャプションとともに展示する「STAND Still 性暴力サバイバービジュアルボイス」が、横浜市青葉区の市男女共同参画センター北アートフォーラムあざみ野1階ミニギャラリーで開かれている。12月9日まで。
サバイバーの目線で社会を切り取る
展示されているのは20 代〜50代の女性10人の作品21点。6回のワークショップごとに「影」「反射」「鏡の世界」「手放す」などの課題が出され、受講生は思い思いに写真を撮ってくる。海、花、町の風景、犬……コラージュ写真もある。サバイバーの目線で社会を切り取り、内側からサバイバーの世界を可視化するのが狙いだ。
写真展に向け、サバイバー自身が、自分で撮影した写真のうち2点を選んで、自分でキャプションを付けていく。
出展するかどうかも、自分で決める。キャプションには写真に込めた思いを綴る。性被害の体験を無理にからめなくてもいい。
写真講座の講師でフォトジャーナリストの大藪順子さん(52)は言う。「性暴力とは権利の侵害。性的な決定権がないかのように扱われ、尊厳が奪われた人たちに、まずは決定権を委ねることが大切。ワークショップと写真展を通して、少しずつ権利をその人に戻していくのです」
「同じように傷つき、生きていく人の姿を伝えたい」
「STAND Still」は2019年に大藪さんが横浜市で始めた。大藪さんは米・コロンビア大を卒業後、1995年から米国の中西部の新聞社に勤務。99年に自宅で性暴力を受けた。「同じように傷つき、生きていく人の姿を伝えたい」と、2002年に性暴力被害者約100人を取材・撮影し、「STAND:性暴力サバイバー達の素顔」を発表した。当時、勤務していた新聞社では企画を却下され、勤務時間外に自分の機材でモノクロフィルムで撮影し、自分で現像したという。「在籍していた新聞社は被害者の話だけを書いて、加害者から訴えられることを回避したかったんだと思う」。その後、著作はテレビドキュメンタリーにもなった。著作権が大藪さん自身にあり、クリアになっていたことが幸いした。
大藪さんはこの撮影の中で、フォトグラファーという第三者が語るのではなく、サバイバー本人が写真を通して語ることはできないだろうか、と考えるようになった。「写真には、先入観や価値観など撮影者自身が映り込む。逆にそれを利用して、当事者の思いをストレートに映し出すことができないだろうかと考えた」
世界的な#MeTooムーブメントの中で、発言できない被害者も多い。自分の体験を言語化することができない人は相談窓口にたどりつくこともできない。こうした人たちに、言葉に頼らない表現が必要とされているとも感じたという。
治療でもアドバイスでもなく、ただ「私が表現する」
写真を使ったアートセラピーやカウンセリングと誤解されがちだが、そうではない。「女性たちは治療されたいんじゃない。アドバイスが欲しいわけでもない。そこまで私は弱くないと思っている。誰にだって、弱さを人に見られたくない、分析されたくない、という思いがある。それはサバイバーも同じです」。
自分自身で表現するのであれば参加したい、という人が自然と集まってきた。単年度で去って行く人もいれば、4年間続けて来ている人もいる。活動はコロナ禍でも続いた。
写真展の会場で開く「ギャラリートーク」には撮影者自身も参加する。辛そうにではなく、あっけらかんと淡々としゃべる姿を見て、ファシリテーターを務める大藪さんは「人ってこんなにも強くなれるんだ」と感心するという。
「自分の世界を公に見せること自体がエンパワーメントになる。何をどんな風に表現してもいい。すべてを受け止めてくれる場所があって自由にやれるとわかると、人は元気になる」
東京、埼玉、横浜で写真展
今後の写真展の予定は次の通り。
- 2023年12月8〜10日 東京都港区立男女平等参画センター2階学習室E(東京都港区芝浦1−16−1)
- 2024年1月14〜20日 さいたま市男女共同参画推進センター パートナーシップさいたま(さいたま市大宮区桜木町1−10−18)
- 2024年1月27日13:30〜15:50 Café&Bar エール・アンジュ3階多目的ルーム(横浜市中区常葉町3−24−2)=プライベート展示会&交流会
- STAND Stillのホームページは https://standstill.jimdofree.com/
(阿久沢悦子)