「被害者の少女に裁判上も適切な保護を」 沖縄の米兵による誘拐暴行事件で法務省に要望

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沖縄の米兵による少女誘拐暴行事件は刑事司法のあり方にも疑問を残した。

8月23日に那覇地裁で行われた、米兵による少女への誘拐暴行事件の公判をめぐり、過去に米兵からレイプ被害を受けたキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが30日、法務省に対し、被害少女を保護する適切な措置を講じるよう申し入れました。

・被害者が法廷に立たずに別室から支援者の立ち会いの下で証言したり、取り調べ時の録音・録画を利用できるようにしたりして、被害者に対面で被害状況を何度も話させないこと
・子どもへの性暴力事件では一般傍聴を制限すること
・被害者の心理的負担を考え、長時間にわたる裁判を避けること
・性暴力の子細を聞いたり、侮辱的だったりする質問は裁判官が即座に中止することができるような厳格なガイドラインを作ること
・被害者が医療やカウンセリングにかかる費用を継続的に公費で負担すること

などを求めています。

ついたての中、一人で7時間半の尋問に耐えた

この事件は昨年12月に発生。米兵は3月にわいせつ誘拐、不同意性交の罪で起訴されましたが、外務省、防衛省は沖縄県議選や沖縄戦「慰霊の日」の後になる6月25日まで、事件の発生を沖縄県に伝えていませんでした。「米軍による性被害を隠蔽したのではないか」と全国で抗議活動が相次いでいます。

8月23日に行われた第2回公判では、被害者の少女が検察側から証人尋問を受けました。午前10時に開廷し、2回の休廷をはさんで終わったのは午後5時半。30人が傍聴する中、少女は証言台を囲う衝立の中で、付き添いのカウンセラーもなく、ひとりで証言に立ちました。

被告人は第1回公判で、「少女は18歳以上だと思った」「同意があった」と主張しています。これに対し、少女は「声をかけられた時から実際の年齢(18歳未満)を伝えた」「『やめて』『ストップ』と何度も言った」と証言しました。主張が対立する中で被告人弁護士からの反対尋問は性暴力の子細に及び、「なぜ抵抗しなかったの?」「その時、どう思ったの?」と何度も質問がありました。

キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん(左)と高木まり参議院議員=東京都内

フィッシャーさんは沖縄の支援者らから公判の様子を聞き、「(母国の)オーストラリアではあり得ない。性暴力の裁判では、被害者の保護が必須だ」と、高木まり参議院議員とともに参議院議員会館で、法務省、警察庁に申し入れをしました。

子どもの権利条約に違反

フィッシャーさんと高木議員は、公開の法廷での長時間にわたる侵襲的な尋問は、子どもの権利条約が定める「感情的及び心理的な健康の尊重」「虐待やネグレクトから保護される権利」「尊重と尊厳をもって扱われる権利」を侵害しているとし、具体的な改善策を求めました。

申し入れに対し、法務省は「個別の事案にはお答えできない」と回答。その後、一般論として、証言台を遮蔽する以外に別室から証言する「ビデオリンク方式」を採用できることや、精神科医やカウンセラーが講師となって検察官・裁判官・事務官に対し性暴力被害の研修を定期的に実施していること、都道府県警が医療費の公費負担制度などを設けていることなどについて説明しました。

フィッシャーさんは「オーストラリアでは子どもの性被害の裁判はクローズド(非公開)で行う」「被害者に裁判について事前に十分な説明をする」「性暴力事件の被害者への医療やカウンセリングは公費負担で、相談窓口も充実している」と説明。「日本では、被害者保護でやっと衝立を立てることができるようになりましたが、それでは不十分です」と訴えました。

法務省「個別の事件のことは答えられない」

「子どもに関する裁判がこんなに長いということはよくあることなんですか?最長でも1時間ぐらいでしょう。今回は米軍が相手だから長くなったんですか?」とフィッシャーさんが尋ねると、法務省の担当者は「一般に個々の事件ごとに裁判所と相談しながら日程を考えている。今回なぜそうなったのかは、個別の事件のことですのでお答えできない」と述べました。

オーストラリアの性犯罪被害者向けリーフレットを持参したフィッシャーさん=東京都内

フィッシャーさんは2002年に神奈川県で性被害に遭いました。そのときに現場検証の写真を撮るからレイプの様子を再現しろと警察で求められたことが、今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)として残っているといいます。「私が再現を拒否すると、男性警察官と女性警察官が笑いながらポーズをとって再現し、私はそれを見ていたのです。そんな屈辱的なことがありますか?」

自身の体験を踏まえ、「レイプされた人の気持ちは被害者にしかわからない。いま彼女の心は傷だらけです。裁判官や検察官、弁護士が、『被害時にどう感じたか?』などと被害者に聞くのは侮辱です。やめてください」と求めました。

「むごすぎる」「被害者は悪くない」

フィッシャーさんは要請にあたり、4人の声明を添付しました。

◆性暴力の被害者支援にあたってきた弁護士のマイケル・オコネルさん

被害者がこのような残忍な攻撃を受けるのは非難に値する。このような反対尋問は、敬意と尊厳をもって扱われるべき被害者の権利を愚弄するものである。被害者の司法へのアクセスを改善し、試練による裁判を緩和することを意図した実質的・手続き的改革が行われてきた。被害者はもはや単なる目撃者ではなく、権利が保護された真の参加者であるべきなのだ

◆青山学院大名誉教授で弁護士の新倉修さん

刑事裁判の目的は、犯罪の被害にあった人の人権を守り、犯罪の加害者について間違いなく事実を確認して、社会の正義を明らかにして、人々の幸福を実現することにあります。被害者を晒し者にしたり、貶めたり、惨めな気持ちにしたり、孤立させたり、責めたりすることは、決して許されません。性犯罪の被害者についてはとりわけ個人の尊重と人間の尊厳を傷つけてはいけません

◆児童精神科医の渡邊久子さん

レイプは『魂の殺人』ともいわれ、自死や精神障害発症につながり、被害者を生涯苦しめる最重度の性被害です。司法の場にレイプの被害者を召喚する際の常識は、細心の親身な人道的配慮です。今回の尋問は、被害者を公共の場で晒し者にし、容赦ない二次トラウマを与えるやり方です。もしこの被害者が自分の娘や妹であったら、このようなやり方はできますか?むごすぎます。児童精神医学の立場から若年者への明らかな人権侵害にあたり、強く抗議いたします

◆キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん

サバイバーとして、そして22年以上被害者の擁護者として活動してきた私たちは、女性や子どもに対する犯罪を根絶するための緊急の国際的な呼びかけに団結して応じます。私たちは彼らの保護を確保し、尊厳と尊重をもって扱い、彼らが受けるべき正義を届ける必要があります。そうしなければ人権侵害となり、彼らの苦しみを長引かせ、基本的な権利を否定することになります。被害者は決して非難されるべきではなく、私たちはすべての女性と子どものための正義と人権の追求を決してあきらめてはいけません。被害者は悪くない