黙っている間に殺される人がいる――ガザ即時停戦を求める広島の声

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遠い国で起こっている戦争や虐殺に、私たちができることってあるのかな。

 イスラエル軍がパレスチナ自治区・ガザ地区に侵攻を始めてから、まもなく4カ月となる。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)によると、侵攻開始(2023年10月7日)から2万6000人以上が死亡し、6万5000人が負傷した。停戦の時期はいまだ見通せないものの、伊藤忠商事は5日、子会社とイスラエルの軍需企業が結んでいた協力関係促進のための覚書を終了させると発表した。「戦争犯罪、国際法違反、人権侵害に日本企業も加担する」として覚書の破棄を求めたネット署名には3万人近くが賛同しており、市民の力を実感するニュースだったと思う。

 私が暮らす広島では侵攻開始直後から休むことなく、原爆ドーム前で小さな集会が開かれている。毎日午後5時半になると思いを共有する人たちが各所から集まり、キャンドルが灯される。即時停戦を求めるプラカードなどが掲げられる中、時に音楽を奏で、時にスピーチで思いを語る行動が続けられている。この集いは「vigil(ビジル)」と呼ばれている。

1月12日、原爆ドーム前で(撮影・提供=中奥岳生)

 私も数回顔を出したことがあったが、多忙を言い訳にあまり参加してこなかったことを心苦しく思ってきた。自分はこの「大量虐殺」を前に何ができるか、無力感に立ち尽くしてしまうような感覚もあった。このままではいけない、行動したいと思っていたところ、4日はいつものvigilの前にデモをすると聞き、参加した。「即時停戦」を求める広島に暮らす人たちの声を、伝えたい。
(小山美砂)※2024年2月7日午後3時更新

 デモは午後4時過ぎに始まった。集合場所では太鼓などの楽器でリズムが取られていて、にぎやかな雰囲気だった。リングベルを貸してもらえたので、私も一緒に音を鳴らした。集まった人たちは老若男女さまざまで、海外の人も多かった。「ガザの人たちは、世界で一番過酷な戦場を生きている。Free Palestine、パレスチナを解放するのが大切なこと。今日広島から強い声をあげたい」と、アメリカからの留学生がスピーチをしてデモは開始。多くの買い物客でにぎわう「広島本通商店街」を通って、約1km先の原爆ドームを目指した。

2月5日、広島市の平和記念公園で

「Free Free Palestine! Free Free Gaza」「虐殺やめろ!今すぐ停戦!」

 集まった50人以上と声を合わせながら歩く。字に書き起こすと厳しい印象を受けるが、デモの雰囲気はいたって友好的だった。終始楽器が鳴り響き、立ち止まる人に「参加しませんか」と声をかける。耳をふさぐ人、怪訝な顔で避ける人、手を振る人、スマホで映す人。私たちを見守る人々の反応はさまざまだった。約30分かけて、夕暮れ時の原爆ドーム前へ。参加者によるリレースピーチが始まった。そのどれもが声をあげる大切さを思い起させてくれるもので心をうたれたが、ここでは特に印象に残ったものをいくつか紹介したい。

黙っている間に殺される人たちがいる

久保賞花さん

23歳の看護師。vigilにたびたび参加している彼女は、声をふるわせ、涙をこらえながら、等身大の思いを語った。

 まず言いたいのは、ここにいる人たちが希望だと思っています。私は人の心の中にあるやさしい、あたたかい気持ちを信じたいと思って、生きてきました。それは家族や友人を大切に思ったり、自然を美しいと思ったり、特別なものではありません。それが今、裏切られているように感じることがあります。多くの人や国が沈黙してこの悲劇を黙認している状況に、人の冷たさを肌で感じています。私が勝手に人にあたたかい気持ちを期待するから傷つくんだと思うんですけれど、人のあたたかさを期待できない社会ってなんなんだろうと思ってます。遠い場所で起きてることだから? 人種が違うから? もし自分や大切な人たちが同じような目にあったらどうするんだろう。私は見殺しにされるんだろうかと考えます。

久保さん

「自分の身に起きたら」とか、そんな子供じみたことを言わなければみんなが関心をもってくれないのかなと考えたりします。平和が大切とか人に親切にとか小さい時から教えられてきたことは一体なんだったんだ、って思ってます。 一方でその冷たさは自分の中にあることも知っています。パレスチナがずっと理不尽な暴力にさらされてきたこと、ずっと前から知っていました。でも関心をもたなくて、深く知ろうとしなくて何もしてこなかったこと……みんな殺されてしまうんじゃないかという状況になるまで黙ってきたことの責任を感じています。自分が許せなくてつらいけど、多くの人や社会に見捨てられたんだと感じているパレスチナの人はもっとつらいだろうと思うと……もっとつらいです。

 私は看護師として、人が生死の境をさまよう現場に立ち会ってきました。命の尊さ、そして死の普遍さを体感してきました。人はみんな死ぬんですけど、でもパレスチナの人たちの死に方は絶対おかしいと思っています。

 平和公園にある原爆慰霊碑に、「過ちは繰り返しませぬから」とあります。過ちってなんだろうと思って調べたら答えがありました。すべての人が原爆犠牲者の冥福を祈って、戦争を繰り返さないことを誓う言葉だそうです。過ちが繰り返されていませんか。慰霊碑の言葉は過去の悲しみに耐え、憎しみを乗り越えて、全人類の共存と繁栄を願い、真の世界平和の実現を祈念する「ヒロシマの心」が刻まれているもの、とありました。

 祈っているのなら、それを表現して行動してほしい。祈っているだけでは平和はやって来ないと感じています。黙っていたら思いすらないのと一緒です。

 前回キャンドルイベントをした1月27日、すごく風が強くてすぐに火が消えてしまいました。このジェノサイドを黙認どころかサポート(※1)し、反対の声すらあげない人が多い。すごく強い風が吹いていると思う。心が折れそうです。でも何度でも立ち上がり、平和を願う火を灯し続けないといけないと思います。

 私は本当になんでもない、ただの1人の人間です。できることも少ないけど、でも声を上げることはできます。あきらめず、恐れずに声を上げたいです。1人じゃないって。声を上げるのは勇気がいります。でも、黙ってる間に殺される人たちがいます。声をあげていきましょう。そして学んでいきましょう。パレスチナで何が起こっているか、世界中で何が起こっているか。このジェノサイドに、そしてすべての暴力にNOという声を突きつけていきたいと思っています。

※1……日常の消費行動の中で、パレスチナに対するイスラエルの人権侵害や国際法違反をサポートしてしまう可能性があります。例えば、イスラエル産の農産物はパレスチナの土地を奪取して栽培されたものがあります。また、イスラエル軍や警察に製品やサービスを提供する企業の商品を購入することも、間接的に人権侵害を支えるおそれが指摘されています。こうした商品の不買運動は「BDS」と呼ばれ、国際的に広がっています。

パレスチナの解放は、世界中で抑圧されている人々の解放につながる

ウィリアム・シャムさん

31歳。ニューヨーク出身で、今は広島県東部の庄原市で農業を営む。パートナーの楢崎萌々恵さんと2歳の息子とともに参加した。訳は楢崎さんによる。

 庄原市から家族みんなでここに来ました。私は子どもを育てる父親であり、農家でもあります。生きることはとても大変です。そして、子育てはもっと大変です。しかし、いくら私が大変でつらかったと感じる一日を過ごしたとしても、ガザで生きる人々にとっては「パラダイス」のように感じるでしょう。我が子が生きる世界も、今この瞬間も血を流しているパレスチナの子どもたちが生きる世界も、同じ世界です。そしてこの世界は、この先も受け継がれていきます。

 私たちはこの世界を公正にしていく責任があります。停戦を求める以上の行動をしなければなりません。私たちはイスラエルによるパレスチナの占領を終わらせなければなりません。

 4年前、私はパレスチナに1ヶ月滞在しました。周りの人々からは「人生、変わった?」と尋ねられました。実際のところ私の人生は、その旅の前からずっとずっと、大きく変わっていたのです。私が初めてパレスチナのこと、イスラエルの植民地主義のことを学び始めたのは高校生の時でした。私の心は、周りの人に叫びたい気持ちでいっぱいでした。なぜこの事実を知らないのですか。なぜ、私たちの目の前で起きている絶対的な現実が見えていないのですか。

 日本の社会ではこういったテーマを話しづらい空気があります。しかし今、状況は大きく変わり始めています。日本全国で新しい世代の若者たちが、パレスチナのために立ち上がっています。多くの人々が目を覚ますきっかけが、虐殺という悲劇であったことは本当に残念です。しかし、一度開いた彼らの目は、もう二度と閉じることはないと私は信じています。

 広島で79年間受け継がれてきたアクティビズムのレガシー(平和運動の遺産)を、若い世代がこの先も受け継いでいくこと願います。なぜならパレスチナの解放は、世界中で抑圧されている人々の解放につながるからです。

占領に反対するか否か。中立的な意見は存在しない

フセインさん

25歳。広島市の大学に留学中。両親の境遇にも触れながら「植民地支配は終わっていない」と訴え、虐殺を黙認して日常生活を送ることを厳しく批判した。

 正直なところ、毎日起きるのは僕にとって闘いなんだ。普通の生活を送ることは、ますます難しくなっている。現実には普通なんて何もないのだから。私は恵まれている。夜は眠れる。食べたい時に食べられる。好きな時に水が飲める。好きな時にお風呂に入れる。私はとても恵まれた生活を送っている。しかし、ガザの人々はもし虐殺されることがなければ、餓死してしまうだろう。草や猫を食べ、猫は浜辺の砂のように地面に転がった死体を食べている。これが現実なのだ。

フセインさん(撮影・提供=中奥岳生)

 長年ガザを支援してきたUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員がハマスと、(どのような形でかは不明だが)「つながり」を持っている可能性があるとする、たったひとつの記事が発表された後、西側メディアはこの記事を取り上げ、誰もがこのニュースを掲載し、共有した。ジャーナリズムの側面から見て、これは深い問題だ。考察や調査もせずにコピーするのは問題であるという事実は置いておくとして、もっと問題なのは、この偏りのある主張のために、日本を含む多くの国がガザへの支援を続けて来たUNRWAへの資金の拠出停止を決めたということだ。これはまだ証明されていない主張のためにパレスチナ人全員を罰するだけでなく、文字通り彼らを餓死させることを意味する。

 これがどれほど深刻な問題か、理解できますか?

 この時点で、すべての国がどちらかの味方をした。占領に反対するか、しないか。人種差別的なナショナリズム政治を支持するか、基本的人権を支持するかのどちらかだ。この状況において、中立的な意見など何もない。

2月5日、広島市内で

 この紛争は、植民地支配に関するものだ。人種差別的な白人政治に関するものだ。植民地主義が終わったと信じたことがあるとしたら、それは夢の中に生きていることになる。植民地主義は決して終わっていない。

 私の話をしよう。父は西アフリカからドイツに移った。また、母はレバノン出身だが、彼女は逃げた。イスラエルに占領され、レバノンの人々は自衛を始めたからだ。

 西側諸国に暮らすアラブ人、私の家族、それらの難民は誰一人として、西側諸国や植民地支配が原因でなければ、故郷から逃げ出すことはなかっただろう。誰ひとりとしてヨーロッパやアメリカなどには行かなかっただろう。故郷で安全に暮らしていただろう。でも現実は違う。植民地主義が終わったとまだ信じているのなら、白人か本当に無知な人、あるいはその両方であるはずだ。そんなことを言えるのは特権階級だけだ。

 UNRWAへの資金の拠出停止を決めた国々は、ガザ地区で人々が餓死してゆくことの責任を負わなければならない。日本もその一部だ。こうした恵まれた国々でパンを買う余裕のあるすべての人が、パレスチナで起きていることの責任を担わなければならない。例えばデモに行くなどして、政府に抗議する意思を示してほしい。

 あなたたちの声はどこにある?日本のみなさんの声は、どこにあるのでしょうか? 

 ガザに降り注いだ爆撃は、核爆弾2発分に匹敵する。それでもあなたは何も起きていないかのように買い物を続け、散歩し、すべてを無視すると決めている。

 広島の人々の痛みを感じなかったのか? 私たちが今立っているこの場所で、たった数秒のうちにすべての命が破壊された。これは文字通り今日起こっていることなのに、あなたは事実を無視している。ただ無視しているだけでなく、パレスチナ人に食糧や水、医薬品を提供することを積極的に拒否し、伊藤忠アビエーション(伊藤忠商事の子会社)はイスラエルの軍需企業と協力するという明確な立場を取っている(※2)。あなたの手は血にまみれている。そして、大量虐殺を積極的に支援している。あなたは平和について話したり主張したりする権利を放棄したのだ。

 おめでとう。
 おめでとう、日本。

※2……記事冒頭の通り、2024年2月5日、伊藤忠商事は協力関係促進のための覚書を終了させると発表しました。

私たちが戦争に協力してしまう

田浪亜央江さん

広島市立大学准教授。中東地域研究とパレスチナ文化研究が専門で、侵攻直後からvigilを続けてきた。田浪さんは、長年ガザを支援してきたUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)に対し、日本を含む10カ国以上が資金の拠出停止を決めたことに強く抗議した。

 あと3日でガザへの侵攻が始まってから4ヶ月目になります。今の状況について色々言いたいことはありますが、まずは皆さんと毎日原爆ドームの前に立ち、さまざまな思いを共有できたことが本当にありがたいと思っています。

田浪さん

 10月頃、私は本当に苛立っていました。毎日朝起きるのが本当につらかった。虐殺が続いているのに、なぜ日本社会では普通の毎日が続いているのか。おかしいじゃないか。この世界は間違っている。なんとかしてくれと、本当に気が狂いそうでした。でもそんな思いを持っている人は私だけじゃなかったんです。私はとっても傲慢でした。私1人だけがガザのこと、パレスチナのことを考えていると思い込んでいました。私の知らないところで同じ思いを抱えている人がたくさんいたんです。黙っているように見えても、ちょっと声をかけるとびっくりするほど大きな声で反応してくれたり、私の知らない人をvigilに呼んできてくれたりしました。本当にみなさんと一緒に行動を続けてこられたこと、心から感謝します。

今日どうしても言い足りなかったことは、日本政府への怒りです。

 日本政府は、パレスチナを長年支援してきたUNRWAへの拠出一時停止を決めました。イスラエルがUNRWAを解体しない限りこの戦争には勝てないとして解体を求めたことに対して、日本だけでなくアメリカ、カナダ、ドイツが支援の停止を決めました。これは、イスラエルによる戦争の一環なんです。世界中がイスラエル側の「陰謀」にならい、「テロ」というマジックワードに従ってしまう。日本社会が追随してしまう。そうやって私たちは、イスラエルの戦争に協力してしまうことになるんです。

 まだまだ私たちの声が足りないと思います。日本社会に伝わるように、これからも毎日、一緒にここに立ちましょう

※3……ロイターによると、世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は資金の拠出停止がガザ市民に「壊滅的な結果をもたらす」と警鐘を鳴らし、「UNRWAほど大規模かつ広範にガザの220万人の市民が緊急に必要としている支援を提供できる能力を持つ団体は他にない」と再考を求めている。

今からでも、「殺すな」の声をあげる――記者のあとがき

 リレースピーチで語られたことは、声をあげないことの暴力性だ。何も行動を起こさなければ、私たちが虐殺に加担したことになるという警鐘だ。私自身、心を痛めながらも積極的に行動してこなかったことを省みた。それと同時に、私のようにどう行動したらよいか悩んでいる人が、きっとたくさんいるだろうと思った。今日、街頭で出会った人の中にもいるかもしれない。その人たちに届くことを願って、このレポートを書いた。今日から、明日からでも行動を起こすことの意味を教えてもらったからだ。

2月5日、広島市内で

 遠く離れた日本で声をあげても意味がないという人もいるだろう。広島で原水禁運動を続けてきた人が、ある日のvigilで話していたことを最後に紹介したい。

「私たちが立って訴えることにどれほどの力があるだろうか、と思う。でも、世界の人々が声をあげなければ、もっと多くの命が失われるかも知れない。広島が核廃絶を訴えても核兵器はなくなっていないが、反対の声をあげる人たちが世界中にいる。市民の力は小さいようだが、核兵器を使わせないことにつながっていると確信したい。私たちの声は、大切な命をひとつでも救うことにつながると信じて、やっていきたい」

2月4日、原爆ドーム前で(撮影・提供=中奥岳生)

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