日本に住む人が拠出する年金積立金は国内外で投資、運用され、その利益の一部を私たちは年金として受け取っています。このうち、パレスチナで現在行われている虐殺に加担している国、企業への投資は約1兆円にのぼります。
虐殺、民族浄化を止めるために投資先を見直し、人道に根ざした管理を求めて「イスラエルからの投資撤退を求める市民の会」が3月24日、厚生労働省に署名を提出し、職員と意見交換の場を持ちました。約150人の市民が参加。
現に日本政府に年金を払っている在日パレスチナ人の悲痛な訴えもありました。
イスラエル国債や軍需産業に計1兆円を運用
年金積立金は厚労省が所管する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、国内外の株式や債券に分散投資しています。2001年度に市場運用を開始し、2024年度第3四半期までの累積収益額は164兆3463億円。うち、利子・配当収入は55兆94億円でした。
2023年度末にGPIFが保有する銘柄のうち、イスラエル国債は2270億円、イスラエルに兵器を輸出している企業の株式はエルビット・システムズ社など11社、計6398億円。占領されたパレスチナ地域で、イスラエルが実施する入植政策に加担する企業の株式はキャタピラー社など16社で計2391億円にのぼります。
https://www.gpif.go.jp/operation/last-years-results.html
イスラエル軍の侵攻により5万人超が死亡
イスラエル軍は2023年10月、パレスチナ・ガザ地区に侵攻。度重なる空爆と封じ込めによる飢餓で死者は5万人を超えています。その多くが女性と子どもです。
今年1月19日、イスラエルとパレスチナは停戦に合意。しかし3月18日にイスラエル軍は空爆を再開し、パレスチナ人の虐殺は続いています。
「市民の会」の山口勲さんはこうした情勢について触れ、「私たちが厚労省に預けている年金は、私たちが健康で文化的な最低限度の生活を営むために払っている。誰かの住む場所を奪い、命を取られるために使われることがあっていいのでしょうか」と訴えました。
厚労省からは年金局資金運用課の課長補佐と資金運用調整官の2人が出席し、2万3167筆の署名を受け取り、質疑応答に臨みました。GPIFからの出席はありませんでした。

厚労省「被保険者の利益のため、投資先は変えない」
市民の会からは現行の日本政府による年金積立金投資が、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資や国連主導の責任投資原則(PRI)にかなっているかどうかについて質問がありました。
これに対し、厚労省側は「経済的利益の追求が投資の目的であり、SDGs(国連の持続可能な開発目標)は副次的なものにすぎない」とし、「投資先の持続的成長が長期的な経済的収益に資する。被保険者の利益のために、特定の国や企業を投資先から除くことは適当ではない」と回答しました。
また、「最終的な投資判断はGPIFが委託する運用先が決定する」とし、「厚労省はGPIFが受託先と行った対話の回数などについて報告は受けているが、議事録などは共有していない」と説明しました。
昨年11月に石垣のりこ参議院議員(立憲民主)が提出した質問主意書への政府の答弁も今回とほぼ同様でした。
「専ら被保険者の利益のためという目的を離れて、他の政策目的や施策実現のために年金積立金の運用を行うことはできない」
日本に住むパレスチナ人も年金を納付
年金は日本に居住する外国人も被保険者となります。パレスチナ人も含まれます。
集会ではその一人、東京在住の外国法事務弁護士、ファディ・キブラウィさんからのメッセージが読み上げられました。

「日本に移住して以来、私と妻は国民年金制度に加入し、年金を納付してきました。これは義務だからというだけでなく、私にとっては日本という国に住むことができることへの感謝の気持ちの象徴でもあります」
「私は日本政府が国際法の支配を支持していることに感謝しています。今こそ、この虐殺を止めるため、そして今イスラエルが行っている行為が、今後の戦争犯罪や虐殺の前例となり常態化してしまうことを防ぐため、緊急な行動が必要です。イスラエルの虐殺は、戦争兵器の製造企業によっても支えられています。多くの善意の人々は声を上げず、こうした企業への投資を通じて、この虐殺やイスラエルによるパレスチナの土地の違法な占領・植民地化の共犯者になってしまっています。
この点において、私はGPIFに対し、現在進行中の虐殺の中での役割を再考していただけるよう、謹んでお願い申し上げます。特に、大量殺戮に使用される弾薬を供給する武器製造企業や、違法な入植活動から利益を得ている企業に対する投資について、再検討を求めます」
「どうか、次世代のためにも、公正で平和な世界への日本のコミットメントを示すような投資を選択してください」
ガザの人たちは、日本がどうするかを見ている
また、パレスチナと日本にルーツを持つダニー・ジンさんが会場でスピーチをしました。
「僕は日本生まれ、日本育ちで日本国籍も保有していますが、父がパレスチナ人という背景を持っています。
さきほど被保険者の利益という話があったと思います。僕は2月でちょうど20歳になって、この前、年金の加入を知らせる手紙が届きました。僕がお金を稼ぐのは、自分の将来にやりたいことがあるためであって、自分の同胞の虐殺に加担するためではありません。僕は年金を払うつもりがありません。
一方で、僕の父は25年前に日本に来てから、日本でずっと年金を納めています。父はパレスチナ人を虐殺するためにお金を稼いでいるのではなく、自分の生活や僕たちきょうだいのために働いて、税金も年金もきっちり納めてきました。日本にはパレスチナルーツをもつ被保険者がたくさんいます。ガザから来た人は、親戚が10人以上、イスラエルの攻撃で殺された、と言っていました。お父さんの友達も、いつもニュースで何人殺されたと見るたびに、殺された人が自分の親戚や家族かもしれない、そして自分の払ったお金が虐殺に使われているのかもしれないという風に、ビクビクしています」

「さきほど、厚労省の方から年金運用の目的は金銭的な利益だけという話が出ました。僕たちパレスチナ人が、同胞を殺すのを手助けしてしまうということは、どうでもいいということだと思いました。
イスラエルはいま、パレスチナのほか3カ国を爆撃しています。世界情勢を不安定にするようなイスラエルに投資して、どのような長期的な利益が出るのか、僕にはわかりません。パレスチナの人たちはガザから、SNSでの僕たちの発信を見ています。日々、僕のDMにも『声を上げてくれてありがとう』とか、そういったメッセージが届いています。彼らは日本政府やGPIFの年金運用がパレスチナ虐殺に使われているということをしっかりとわかっています。僕も彼らも、このことは忘れません」
「僕のおじいちゃん、おばあちゃんは昨年立て続けに亡くなりました。パレスチナで生まれて、10代で難民になって、パレスチナに戻れないまま亡くなってしまいました。僕のおじいちゃん、おばあちゃん、そしてお父さんも、パレスチナのことについてはあまり話したがりません。なぜなら、それは彼らにトラウマを思い起こさせるからです。なので、僕も僕のきょうだいも、パレスチナについてあまり聞いてきませんでした。でも、僕らの血にはパレスチナ人のアイデンティティがしっかりと強く刻まれています。僕は日本人であるけど、パレスチナ人。アイデンティティだけでなく、民族の悲しみとか憎しみとか、しっかりとそういったものを心に刻んでいます。
僕たちパレスチナ人は、GPIFが僕たちにしてきたことを忘れません。しっかりと覚えています。それと同時に、今日、議員や市民が僕たちのために立ち上がってくださっていることも忘れません。
パレスチナ解放まで、ぜひ連帯して一緒に闘ってくださると嬉しいです」
オンライン署名は継続
「市民の会」はオンライン署名「日本の年金による虐殺と民族浄化への投資をやめさせたい!」を継続しています。