東京都町田市の私立フェリシア高校(旧鶴川高校)の女性教諭3人が、年度途中の60歳の誕生日をもって雇用を打ち切られたのは不当として、定年後の再雇用を求めていた裁判で、東京高裁(金子修裁判長)は11月27日、女性教諭らの労働契約上の権利を認めた一審判決を維持し、高校を経営する学校法人明泉学園に対し控訴棄却の判決を下しました。
学年の途中、満60歳で定年退職
勝訴したのは国語教諭の三木ひろ子さん、社会科教諭の松山恵美さん、理科教諭の村田智美さん。いずれも36〜37年間、この高校で専任教諭として「働いてきました。多くの学校では、教員の定年について「満60歳(または65歳)の誕生日がある年度末まで」と定めています。年度途中で担任や教科担当が交代することの混乱を防ぐためです。一方、フェリシア高校は、2012年に就業規則を変更し、定年を「満60歳の誕生日」と定めました。労働組合つぶしとみられています。この規則をもって、2020年6月に松山さん、9月に村田さん、10月に三木さんが次々と定年になりました。組合員は7人から1人にまで減りました。
2019年、同校の常勤講師の昇給を認める判決が出ました。他の講師らが昇給を求めたところ、解雇やパワハラによる退職が相次ぎ、「1年から2年、2年から3年へと持ち上がりの担任がたった一人という異常事態になった」(三木さん)といいます。そんな中でのベテラン3人の誕生日定年。3人は定年後の再雇用を求めていましたが、それも無視されました。「先生たちまで、いなくならないで」という生徒らの声を押し切って、退職翌日には職員室から机が撤去され、学校への立ち入りが禁じられました。3人は他校で非常勤講師として働きながら、職場復帰を求めて労働委員会や裁判に訴えました。
「おはよう」も処分対象
一審の東京地裁判決は、「学園が就業規則を変更して誕生日定年にしたことは合理性のない不利益な変更であり無効」としました。学園側は高裁で、再雇用拒否の理由として、それぞれに20回前後行った懲戒処分を挙げました。
三木さんは「校門のところで生徒に『おはよう』と声をかけるあいさつ運動を続けたことや、事務室に無断で立ち入ったことが処分の対象となった。コロナ下での団体交渉の人数を会議直前に5人と制限され、制限を破ったとして処分されたりもしました。ほとんどが『ためにする処分』でした」と振り返りました。
高裁判決は、再雇用を拒否した学園側の措置は、「高年齢者雇用安定法」や、同法に伴って継続雇用制度を定めた就業規則に照らして違法である、としました。また、再雇用拒否が違法である場合は、雇用者側が再雇用の申込みを承諾したとみなすほかない、という判断を示しました。その上で明泉学園に、教諭らが定年退職とされた日以降の月例賃金と慰謝料の支払いを命じました。
定年退職から4年。三木さんは「当時の教え子の卒業には間に合わなかったけど、間違っていることは間違っていると訴えることは大事だと、YouTubeでの発信を続けています。卒業生たちもそれを見てくれている」と言い、改めて1日も早い職場復帰を求めました。
同校には、家庭的、経済的、社会的に厳しい状況の生徒たちが多く進学してきます。アルバイトをしながら学ぶ子も少なくありません。
「だから、私たちも黙ることができなかった。彼女たちに、世の中は変えられる、と伝えたい」(三木さん)
村田さんは「寿退社の世代ですが、教員資格を取り働き続けて来た。女子校はいまでも女性教諭が多く、雇っては辞めさせるなど教員の回転が速かったり、給与が低く抑えられたりしがちです。非正規雇用も多い。男女の差がなく、きちんと労働者として認められる仕組みにしてほしい」と話しました。
一審東京地裁判決時の記事はこちらです。