【動画あり】共同親権法案 DVや虐待の被害続く懸念

記者名:
@生活ニュースコモンズ

離婚後でもDVや虐待が続くのではと怖い

今、国会で審議されている、共同親権を導入する民法改正案。離婚するときに父と母で、共同親権にするか単独親権にするかを協議し、決まらなければ、家庭裁判所がどちらにするか判断するという内容です。ただ、DVや虐待が認められる場合には、家庭裁判所は単独親権にしなければならない、となっています。

しかし、実際に被害を受けている人やDV事件を多く手がける弁護士からは、「社会的にDVが軽視され理解されていない現状で、本当に排除できるのか」という声があがっています。

3日の衆議院法務委員会では、DV被害当事者で「#ちょっと待って共同親権プロジェクト」チームリーダーの斉藤幸子さん(仮名)が、「この法案には子どもたちや私たちの命がかかっています」と訴えました。こちらの動画(約2分)でお聞きください。

夫から居場所を突き止められる恐怖と隣り合わせの毎日を送っているという斉藤さん。姿が映らないように衝立の奥から、ボイスチェンジャーで声を変えて意見を述べました。

そうまでして国会の参考人質疑に立ったのは、“改正案ではDVを排除するとしているけれども、実際にはそうならないのでは”という強い危機感があるからです。

社会的にDVについての理解がない」

動画の中にもあったように、斉藤さんは、夫と暮らしていた当時、DVの証拠を残せる状況にありませんでした。録音や録画をしていることが夫にわかったらさらにひどい暴力を受けることが目に見えていたからです。そもそも斉藤さんは、友人に指摘されるまで自分がDVを受けていると自覚できていませんでした。むしろ当時は「夫を怒らせてしまうのは自分の頑張りが足りないからだ」と自分を責めていたのです。

斉藤さんやほかのDV被害者が感じているのは、”社会的にDVについての理解がない”ということです。SNSやニュースのコメント欄には、DVについてのこんな誤解があふれています。

グーではなくパーで殴られたのだからDVでない

血が出ていないからDVでない

しつけや教育のためだと言っているからDVではない

保護命令が出ていないからDVではない

そして、今、DVとして認定されるか一番心配なのは、以下のような、精神的DVや性的DV、モラルハラスメントだといいます。

・「誰のおかげで生活できているんだ」と非難する
・無視する
・深夜から朝まで説教を続け反省文を書かせる
・親族や友人と連絡をとることを認めない
・生活費を渡さない
・性行為の強要

被害当事者の仲間は、必ずと言っていいほど こう口にするそうです。「裁判官や調停委員はDVへの理解が乏しい」。斉藤さんは国会でこう述べました。「現状、裁判所は事情を考慮してくれていません

「家庭裁判所はDVを除外しきれない」娘が元夫に殺害されたケースも

斉藤さんが触れた、“面会交流初日に、4歳の女の子が父親に殺害された事件”でも、背景には、DV被害の軽視がありました。離婚事件を多く手がける太田啓子弁護士は、こう解説します。

インタビューに答える太田弁護士

「このケースでは、母親は家庭裁判所で元夫のDVを訴えていました。でも調停委員は、子どものためにと面会交流を促したのです。その初回の日に元夫は娘を殺害し自殺しました。しかし、2021〜24年の、民法改正についての法制審議会(法務大臣の諮問機関)では、なぜ防げなかったのか、今後どうしたらそうしたケースをスクリーニングできるのかという検証がまったくなされませんでした。このままでは事件の再発を防げません。家裁はDVを除外しきれないだろうと思います」

「そもそも日本の離婚は、9割が協議離婚で家裁は関与していません。『家裁がDVを除外します』と言っているけれど、家裁が関与しない世界で家裁が頑張ると言われても、と思います」

共同親権を含む民法改正案がこのまま通れば、危険な事態になると太田弁護士は警告します。
間違いなくDV事案の共同親権が生まれます。離婚さえしてくれればという思いから、養育費を要求せず、言いたいことを飲み込んでいる女性がたくさんいるように、離婚さえできるなら共同親権でも仕方ないと思ってしまうケースが多く出ると思います」

「子どものために良いもの」という推定のもと、起こる弊害

DVや離婚事件を多く手がける岡村晴美弁護士も、3日、参考人として国会で意見を述べました。
こちらの動画(1分40秒)でお聞きください。

岡村弁護士も、DVについて社会で周知されているとは言い難いと指摘します。
「DVには、身体的暴力はもちろん、精神的暴力、性的暴力、経済的暴力、社会的隔離などの非身体的暴力もありますが、それが社会に周知されているとは言い難く、身体的暴力が重いDVで、非身体的暴力は軽いDVであるという誤解があります」

さらに岡村弁護士は、現在、面会交流が“原則実施”の運用となっていることをあげ、その結果起きていることは、共同親権の導入後を考える上で参考になると指摘します。

「調停の席で、『どんな親も、親は親』『虐待があったからこそ修復をしていくことが子どものため』という説得がなされ、DVはもちろん、虐待も子の拒否すらも軽視されて、原則実施という非常に過酷な運用が行われています。面会交流時の殺人事件や面会交流中の性虐待事件も起こっています。これは極端な例外ではなく、むしろ氷山の一角とみるべきです」

面会交流は子どものために良いものという推定のもと、DVや虐待などの不適切なケースは除外できるという考えで弊害を生じさせてきました。これは、共同親権の導入を考える時にも反省をもって参考にすべき経験です。親権の共同は子どものために良いものという推定に基づいて原則共同親権とすることは、子どもの利益を害します。裁判所がDVや虐待を見抜けずに共同親権を命じれば、DVや虐待の加害が継続することを深刻に捉える必要があります」

DV被害当事者・斉藤幸子さん(仮名)の国会での意見陳述はこちらの00:37:56〜(15分)
DVや離婚事件を多く手がける岡村晴美弁護士の国会での意見陳述はこちらの5:05:40〜(14分)

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55091&media_type=

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