長射程ミサイル配備、住民説明会開催の要求に国は一切応じず 静岡・富士、熊本・健軍の住民らが防衛省交渉

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防衛省は長射程ミサイルの配備日程を明かさず、駐屯地周辺の住民説明会も開かず。

飛行距離1000km以上の長射程ミサイルの配備が予定されている自衛隊演習場や駐屯地周辺の住民らが2月17日、東京都内で防衛省交渉を持ちました。自衛隊の装備では初めて周辺諸国を先制攻撃できる能力があるミサイルで、配備地の周辺住民は反撃されるリスクが高まります。

今年3月末までの配備が決まっている静岡県・東富士演習場、熊本県・健軍駐屯地とも、地域が求める住民説明会は開かれないまま。配備期限があと1カ月半後に迫った現在も、「いつ配備するのか」という住民からの問いかけに防衛省は回答していません。来年度配備の宮崎県・えびの駐屯地、北海道・上富良野駐屯地、茨城県・百里基地も同様です。

17日に参議院議員会館で開かれた防衛省交渉には静岡県小山町、神奈川県横須賀市、愛知県小牧市などから住民ら約70人が参加。1カ月半後に迫った長射程ミサイルについて、事前に質問状を送り、防衛省側からの文書回答を基に、質疑応答を重ねました。

「東富士ミサイル基地化否定の確約」が反故に

交渉に先立ち、現地報告がありました。

「富士にミサイルやめて!の会」賛同人の竹内康人さんは、まず富士演習場の歴史をひもときました。

「富士山周辺には、本州最大の1万2000haの演習場がある。かつて陸軍富士裾野演習場があった地を、敗戦後に米軍が占領し、東富士・北富士演習場とした。1968年に日本に返還されたが、東富士密約があり、自衛隊による管理と米海兵隊のキャンプ富士が併存する形で今に至っている。1955年、1965年に米軍が地対空ミサイルを持ち込み、地元の道路を横断しようとしたことをめぐり、住民が反発。1967年に『東富士ミサイル基地化否定の確約』を求め防衛施設庁と合意文書を交わした。この文書の効力は今も生きている」

しかし、1998年から東富士演習場で日米共同訓練が行われるようになり、次第に軍拡が進行。高速滑空弾や12式地対艦誘導弾能力向上型が配備され、昨年には陸自のMLRS(多連装ロケットシステム)、米軍HIMARS(6輪トラックによる自走多連装ロケットシステム)による合同射撃訓練も行われました。米海兵隊による実弾射撃訓練(通称104訓練)も行われています。

竹内康人さん=東京都内

ミサイルのブースター、周辺落下の危険も

竹内さんは「演習には周辺の民間の輸送会社もフェリーも利用している。沖縄の負担軽減が名目だったが、住民に健康影響のある白リン弾も使い始めた。(防衛省は)陣地を守るためにロケットランチャーや迫撃砲を使いたいとも言い出している。オスプレイの低空飛行も常態化している」と話しました。

長射程ミサイルにはブースターが付いています。「それが周辺の住宅地にどういう形で落下するのかわからない。ミサイル問題は専守防衛に反し、憲法に違反する。主権者として戦争加害も被害も拒否したい」と竹内さん。

今年1月に静岡県民有志に呼びかけ「富士にミサイルやめて!の会」を結成し、反対運動を強めていく考えです。

静岡県の各地から集まった「富士にミサイルやめて!の会」のメンバーら=東京都内

弾薬庫火災の際は2分以内に1km離れろ?

同じく今年度に長射程ミサイルを配備する予定の熊本県・陸上自衛隊健軍駐屯地周辺の住民、海北由希子さんからメッセージが寄せられました。

昨年3月16日、共同通信が「長射程ミサイル能力向上型の九州先行配備」という第一報を報じた時、私たちは驚き、県内外の多数の団体・市民との連名で要請書を書き、県と国に対して申し入れをしました。その後、2月22日に正式に発足した「戦争止めよう!沖縄西日本ネットワーク」からも各地に連帯を求めました。記者会見、反対行動、要請、議会への意見書提出など、絶え間なく抗議し続けてきました。
7月末に共同通信が第二報を報じ、8月4日に急きょ行った熊本集会には、わずか2日半で115の団体(個人含む)から賛同が集まりました。しかし、それらの民意を嘲笑うかのように、8月29日に九州防衛局長が熊本県庁を訪れ、「長射程ミサイル能力向上型の健軍配備決定」を通達しました。それは熊本から市民団体と市議会議員が東京を訪れ、防衛省交渉をしていた真っ最中の出来事でした。(中略)
健軍駐屯地に最初に配備することについてNHKでは、「1998年から第五地対艦ミサイル連隊を運用してきた整備基盤があり、南西地域の防衛体制の強化のため地理的な位置関係を踏まえた」とのことでした。
これらの言葉からもわかる通り、そこに住む人々の民意や自治体の意向など、微塵も考えられてはいません。(中略)
私たちは健軍駐屯地の近くで暮らしています。そこには司令部である西部方面総監部や、第五地対艦ミサイル連隊、第301電子線中隊、現在は新たに2棟の弾薬庫も敷地内に建設されています。
何らかの原因により弾薬庫で火災が発生した場合、自衛隊内規では消火活動は禁止されていると聞きました。ミサイル弾薬庫の場合は特に危険なため、2分以内に1km以上離れること、と自衛隊の教科書に書いてあります。そんなことは不可能ですし、非現実的です。
私たち住民に対面の説明会を開かない理由は、そんな酷いことばかりを押しつけることになるからではないのですか?それが「人権侵害」に当たる行為であるとわかっているからではないのですか?
皆さんのお仕事は、いい加減なことしか言わない国会議員に使われることではありません。皆さんを含む国民の、生まれながらに持つ人権、幸福追求権を守ることです。そのことをどうか思い出してください。よろしくお願い申し上げます。

輸送ルート「詳細はお答えしかねる」

交渉の席には20人ほどの防衛省職員が参加し、文書回答をもとに住民との質疑応答がありました。

昨年8月に長射程ミサイル配備計画が発表されて以降、対象となった地元自治体に対して行ってきた情報提供や説明については「関係自治体に資料を用いて説明した。住民については当該地域防衛局のホームページを見ていただければ、出せる情報はそこにある」というにとどめました。

今年度中とされる東富士演習場、健軍駐屯地へのミサイルの配備日程については、「現在検討中である」という以上の情報は開示しませんでした。「地元自治体にはいつ言うのか」という質問には「配備の日程が決まり次第、自治体には通知する」というにとどめ、3月の上旬、中旬、下旬のいつごろかについても明らかにしませんでした。

搬入の輸送ルートに関して周辺住民にどのように通知するのか、という問いには「輸送の安全を確保する観点から、詳細にかかるお答えは差し控える」。

これでは住民は身の安全を守ることができません。

一般論として「周辺地域の安全確保に努める」

「東富士演習場や健軍駐屯地からミサイルが発射される可能性はあるのか」「ブースターの落下場所は発射地点からどのぐらいの距離になるのか」についても同様で、次のように回答しました。

「一般論として、状況に応じて、平素の配備先から必要な場所に移動して任務にあたることになるため、特定の場所への配備をもって、必ずしもその場所で運用することになるわけではない」

「射撃にあたっては周辺地域の安全確保に努めた上で実施することは当然である」

「ブースターなど関連データについては、装備品の性能等を明らかにすることになるため、お答えは困難である」

周辺住民が輸送に関して何に気を付け、ミサイル基地が攻撃を受けた場合、どのように避難したらいいのかの目安になるようなことには、ゼロ回答でした。

国産の12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)の発射試験。ブースターの使用が認められる(防衛省ホームページから)

「住民説明会を実施する予定はないが、丁寧なご説明に努める」

長射程ミサイルの配備計画がある地域に対し、防衛省、地元自衛隊はこれまで一切の住民説明会を拒否しています。以前、防衛省は各地での弾薬庫設置や秋田県、山口県に配備予定だったミサイル防衛システム「イージス・アショア」については地元説明会を行ってきました。今回の交渉で「なぜ同様に説明会を開くことができないのか」と住民側から重ねて問われても、防衛省側は用意した文章を読み上げることに終始しました。

「防衛省からは、関係自治体に対して資料を用いてご説明をさせていただいている」

「加えて各地方防衛局のウエブサイトにスタンド・オフ防衛能力に係る概要資料を掲載するなど、我が国の安全保障上の意義や重要性について、既に積極的な発信に努めているところである」

「こうした取り組みを行っている中、現時点において住民説明会を実施する予定はないが、引き続き丁寧なご説明や適切な情報提供にしっかりと努めてまいる」

参加していた住民側からは「なぜ地元説明会をやらないのか。やらないのにリスクだけを押しつけるのは独裁国家だ。納得のいく説明を一つも示していない」と抗議の声が上がりました。

スタンド・オフ防衛能力についての説明図(防衛省ホームページから)

地下化して生き残るのは自衛隊だけ

最後に全国で進められている自衛隊基地の地下化について、熊本健軍駐屯地から質問がありました。主要司令部の地下化(抗堪化)事業は2025年度、健軍、那覇、三沢など13施設で進められ、関連総予算は932億円。2026年度予算案にも231億円が盛り込まれています。

「健軍駐屯地の司令部の地下化を行っているのは、標的となり攻撃されることを想定しているからだ。その具体的な想定とはどのようなものか。また攻撃された場合、隣接する市街地に暮らす住民は大きな被害を受ける可能性が高い。被害シミュレーションは行っているか、また今後行う予定はあるか。その場合、住民の安全対策はどのようにして検討されているか」

防衛省の回答に「住民の安全」の視点はありませんでした。

「国家防衛戦略及び防衛力整備計画では、持続性・強靱性の観点から、司令部の地下化を含む自衛隊施設の強靱化等により、平素においては自衛隊員の安全を確保し、有事においても容易に作戦能力を喪失しないように、粘り強く活動できる体制を確保していくこととしている」

「こうした防衛力の抜本的強化の取り組みは、力による一方的な現状変更やその試みを決して許容しないとの我が国の意思を示すことにより、我が国として相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力を得ることができ、我が国の武力攻撃そのものへの可能性を低下させるもので、国民の皆様の安全につながるものと考えている」

住民らから「これでは地下化して生き残るのは自衛隊だけであり、地上の住民は置き去りだ」との指摘が上がりましたが、防衛官僚は「重ねて申し上げます」と繰り返し手元の文書を読み上げるだけでした。

防衛省に住民説明会を開かない理由を問いただす竹内さん(中央)=東京都内

「国民の命と安全を守る」の内実は

交渉に参加した福島みずほ参議院議員は「まるで太平洋戦争末期に、疎開用に長野県に建造された松代大本営と一緒だ。国民が壊滅的打撃を受けても大本営は地下に逃れようとした。同じことを繰り返して一体、何になるというのでしょうか」と問いかけました。

静岡県沼津市の山崎ひろみさんは「高市首相が言う『国民の命と安全を守る』の内実はこれだったのかと、残念な気持ちでいっぱいです。沖縄戦で日本軍が住民を守らなかったのと同じように、いま、私たち駐屯地や基地周辺の住民の命や安全はないがしろにされている」と話しました。

神奈川県横須賀市から参加した「非核市民宣言運動・ヨコスカ/ヨコスカ平和船団」の新倉裕史さんは「50年にわたり自衛隊と交渉してきたが、時間の経過でだんだんと『地域住民に分かってもらわなくてもいい』という傾向になってきている。しかし、少人数で同じ基地周辺住民としての意見を聞くと、本音が出ることもある。防衛省職員や自衛隊員と、人としての言葉が出てくる交渉をどうやったらできるかを考えていきたい」と期待をつなぎました。

2月19日には、トマホークの配備が計画されている長崎県佐世保市、広島県呉市、京都府舞鶴市、神奈川県横須賀市の住民による共同集会が東京都内で開かれ、共同声明が発出される予定です。