自分の「嫌だ」を相手に上手に伝えるにはどうしたらいい?
SNSで知り合った人に「裸の写真を送って」って言われたら?
そんな質問に、子どもたちは友だちと話し合いながら答えを探しました。
「嫌だ」「怖い」は自分を守る大事なセンサー
宮城県南三陸町の全ての小中学校で6月15日〜17日、「心と体を守る教育」のパイロット授業が行われました。子どもの権利擁護に取り組む公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンが「SRHR for JAPAN」(*1)の一環として、南三陸町教育委員会と連携して実施。誰もが性と健康の権利を実現できる社会を目指して活動するNPO法人ピルコンが教材を作成し、講師を務めました。17日の授業に同行取材しました。
対象となった学年は小6と中3。
町立志津川小学校では28人が参加しました。ワークショップ形式で、子どもたちが体や手を動かしながら学んでいきます。
最初に子どもの四つの権利についての説明がありました。
「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」です。
それがないがしろにされた時、「嫌だな」「こわいな」「モヤモヤするな」と思う。
「それは自分を守る大事なセンサーです」と講師の染矢明日香さん。

全身のイラストに付箋を貼る
子どもたちは、配られた子どもの全身のイラストを使い、「他の人にさわられたくない」と思う部分に付箋を貼りました。一人ひとり、「さわられたくない」と思う部分には、違いがあります。
一通り貼り終わった後、水着で隠れる部分と口を「プライベートゾーン」と呼び、「自由に見たりさわったりしていいのは自分だけ」「さわるときは、自分一人のときにやさしくさわる」と説明がありました。
「家族でも、友だちでも、先生でもじろじろ見たり勝手に触ったりできない。触られたら嫌だって言っていいんだよ」

「ズボンおろし」は性の暴力
次いで助産師の日山栞里さんが「同意」について説明しました。
「からだ、こころ、人との関わりを知って、自分も他の人も安心・安全に関わる方法を知っていきましょう」
いじめや他の人を傷つけることとして四つの暴力の形を例示しました。
「体への暴力」「お金の暴力」「心への暴力」「性の暴力」
子どもたちは、それぞれについて思い当たることを書いていきます。
このうち心への暴力は「バカなど傷つく言葉を言う」「無視や仲間はずれにする」「大声でどなる」など。
性の暴力は「スカートめくり」「ズボンおろし」「着替えをのぞく」「無理矢理キスする」「はだかの画像を見せる」など。
小学生でも心あたりのある「暴力」の内容を、子どもたちはうなずきながら聴きました。

「いや」という練習をしよう
続いて「いいよ」と「いや」のサインはなんだろう、と考えました。
「いいよ」とは、言葉やうなずくなど、はっきりしたサインがあること。
講師が「黙っているのは?」と聴くと、子どもたちは「いや」と口々に言いました。
その上で「いやだ」を伝える練習をしました。
「友だちから急に肩を組まれてびっくりした。その友だちとは仲良くしたいけど、やめてほしいとき、なんて言う?」
子どもたちは額を寄せて話し合います。
「明るい感じでやめてねって言う」「そういうの、好きじゃないんだ」「今はいや」などの言葉が出てきました。
「どう?いやって言えそう?」と聞かれて、子どもたちは「言えそう!」「言える!」と顔を上げました。

相手も自分もいいよ、が「同意」
最後にインターネットの使い方について、講師のななこさんから説明がありました。インターネットは便利だけど、「広がりやすい」「消せない」「嘘がわかりにくい」という特徴があります。
「写真を撮る、送るときはその人にいいかどうか確認するといいね」
「ネット上のやりとりは誤解が起きやすい。相手を傷つける言い方になっていないかよく考えてから送ろう。返事がなくても気にしすぎない。大切なことは通話や会って話すのがいいよ」
授業の後、子どもたちに感想を聞きました。
女子児童は「相手も自分もいいよ、というのが同意だと改めてわかった。おうちに帰って家族と共有します」。
男子児童は「自分が許可しないとプライベートゾーンには誰もさわれないんだとわかった。大事なことを教わった」。
河原正樹校長は「人権意識のベースになることに触れられた。小学校の低学年ではふざけと遊びの区別がついておらず、相手がいやがることでもふざけてやってしまうことがある。段階を追ってもっと低学年から教えてもいい内容だと感じた」と話しました。外部講師による授業は「子どもの食いつきが違う」といいます。「子どものころから同意について学んでいれば、大人になってセクハラや性暴力をする人はグッと減ると思います」と期待を寄せました。

デートDV 誰でも被害者にも加害者にもなり得る
歌津中学校では、3年生を対象にもう少し踏み込んだ内容の授業がありました。
相手に触れる時は、同意がないと相手を傷つけること。
2人に対等な関係性があることが重要なこと。
同意の大切な要素として、「一方が断っても怒られない」「お互いの『したい』がある」「一度『したい』と言っても、その後いつでもOKではない」などを伝えました。
また、恋人同士の間で起こる「デートDV」は誰でも加害者にも被害者にもなり得ると示しました。講師は「不機嫌になる相手と付き合っていた時は、相手を怒らせないようにしていた。健康的ではない人間関係だった」と自分の経験を話しました。
「SNSを使ったことがある?」と聞くと生徒の8割が挙手しました。
「はだかの写真を送ってと言われたら、どうする?」という問いかけに、生徒らは席の近い友だちとしばし話し合いました。
講師はLINEのやりとりを使った寸劇を披露し、「先輩や大人が相手だと、断りづらい。気になる相手だと断りづらい。そういうことがあるかもしれません。送る前にネットに公開してもいい写真かどうか考えたり、信頼できる人と共有・確認したりするのがいいかもしれませんね」とアドバイスしました。
性について悩んだときにつながれる具体的な相談機関の紹介もありました。

生徒が関心を持ち意欲がわく授業
授業の後、数人に感想を聞きました。
女子生徒は「自分もデートDVの加害者になることもあるから気をつけないといけないと感じた。性に関する話題は気まずいと避けてきたけれど、知っていた方が将来的にもいいと思う」
男子生徒は「デートDVを初めて知った。嫌だと思った時の断り方について、友だちと話せたのがよかった。これからは上手く断れそう」
渡辺淳一校長は「生徒が関心を持ち、意欲がわく授業でよかった。スマホやSNSの使い方についても、トラブルを認識した上で正しく使えるようになるといい。性に関する教育は学校の中だけで完結するのは難しい。外部の方に、男女の付き合い方や適切な性行動について、子どもが理解するように教えていただけた」と振り返りました。
準備に8カ月、保護者への説明動画も
プラン・インターナショナル・ジャパン、ピルコンと南三陸町は昨年10月から何度も会議を重ね、授業の内容をすりあわせてきました。性に関する内容をどこまで扱うのか心配する声に応え、事前に保護者向けの説明動画も作成し、配布しました。
中学校の授業を参観した県PTA連合会の星岳大さんには、小中学生の3人の娘がいます。「わりとなんでも話す親子だけど、男親から娘たちに、こういう話はなかなか教えづらい。内容を事前に確認できたのもよかった。日ごろ、SNSで写真を送っちゃだめだと子どもに教えているが、危機感が伝わりづらく、もどかしく感じていた。今日きちんと伝えていただいてよかった」
南三陸町は2011年の東日本大震災で大きな津波の被害を経験。子どもたちは学校で、自分の命を守るために津波が来たらすぐに逃げる、と教わってきました。
外部評価者として関わった青山学院大学社会連携推進機構の苅宿俊文客員教授は「津波から逃げること、相手にノーを伝えることは、どちらも子どもの能動性にかかわるが、後者は他者との関係性の作り方が課題になる。両者が合わさることで新しい命の教育が生まれる可能性がある」と話しました。

プラン・インターナショナル・ジャパンの長島美紀さんは「事前事後のアンケート比較などの外部評価を生かして、授業をブラッシュアップし、いずれは南三陸町の教員が子どもたちに教えられるような体制を作っていきたい」と話しました。
「心や人間関係のことも学んで欲しい」
同団体が2025年に全国1906人の高校生の保護者を対象に行った「心と体を守る教育」に関する保護者意識調査では、「性や心、関係性についてどの学年でどのように教えられるとよいか」という設問に、「性の知識だけでなく、心や人間関係のことも段階的に学んでほしい」との意見が54.7%と最多を占めました。また、「誰が教えると安心できますか?」という問いの答えは「助産師、看護師、心理師などの外部講師」が71.6%、次いで「学校の先生と外部専門家が連携」が65.0%と、外部の専門家への期待が高いことがわかりました。
同団体は南三陸町の授業をプロトタイプとして、全国に「心と体を守る教育」を広めていきたいと考えています。
*1……SRHR for JAPANはプラン・インターナショナル・ジャパンが2025年から2028年にかけて行う「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」普及のためのプログラム。企業やソーシャルセクターと連携し、子どもが自分の心と体を理解し、守り、安心して語れる社会の実現を目指し、調査・啓発活動のほか、学校現場での取り組みを支援している。

