17万人超に消費税延滞加算のおそれ STOP!インボイスが1万541筆の請願署名を国会に提出

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インボイス開始後初の確定申告 消費税申告漏れの17万人超に延滞加算のおそれも

インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称「STOP!インボイス」)が6月14日、昨年10月に始まったインボイス制度の中止・廃止を求める紙の請願署名1万541筆とオンライン署名58万2766筆を、岸田文雄首相、財務省、国税庁、国会議員に提出しました。

インボイス制度とは適格請求書等保存方式。年間課税売上額が1000万円以下の免税事業者との取引にも消費税が課税され、その分を「免税事業者」「課税事業者」「消費者」の誰かが負わされることになります。すでにフリーランスや個人請負、自営業者らがインボイス登録をしていないとの理由で取引から排除されたり、あらかじめ消費税分をひかれて取引価格を下げられたりといった事態が生じています。

分厚い封書で届いた紙の署名

紙の署名は1月下旬から約4ヶ月をかけて集めたもの。オンラインとは違い拡散力はありませんが、分厚い封書で届くなど一通、一通の重みを感じた、といいます。またオンライン署名も制度開始以降に4万筆上積みされました。

STOP!インボイスの小泉なつみさんは「上積みの背景には、インボイスによる取引停止や排除、値下げ、最悪の場合は廃業という実害が降りかかってきたことが大きい」とみています。

個人事業者の申告、前年の1.9倍に

国税庁が5月に発表した「令和5年分の所得税等、消費税、贈与税の確定申告状況等について」によると、インボイス導入に伴い、個人事業者の消費税の申告件数は197万2000件と前年から86.9%、91万7000件増加しました。一方、申告納税額は6850億円で前年比9.1%増。年間売上額が1000万円以下の個人事業主を幅広くインボイスで捕捉し、薄く、広く消費税をかけた実態が見えてきます。

2023年度中に免税事業者からインボイス発行事業者に変わった人は104万8000人。そのうち、期限内に確定申告があった人は87万5000人でした。

「令和5年・消費税申告件数と申告額」国税庁ホームページより

税理士の平石共子さんは、ここに落とし穴がある、とみます。

「83%が期限内に申告しているので、一見、問題ないように見えるのですが、実数でいうと17万3000人が申告していない。この人たちをどうするんですか」

国税庁のホームページでは、消費税を期限内に納付出来なかった場合は法定期限(3月末日)の翌日から納付する日までの期間について延滞税がかかる、としています。(2ヶ月までは2.4%、2ヶ月以降は8.7%)

確定申告が間に合わない、もしくは忘れていて、その後に届く税務署からの通知を見落とした場合には、延滞税が積み上がってしまうおそれがあります。

8割が移行期の「2割特例」を利用

さらに、免税事業者からインボイス発行事業者になった人のうち、83.9%にあたる73万4000人が「2割特例」を利用していました。2割特例とは、移行期措置の一つで、2026年9月30日までの期間、納付税額を売り上げにかかる消費税額の2割と計算することができる制度です。

平石さんは「今回の確定申告で、インボイスによる課税期間は10〜12月の3ヶ月間のみ。そして2割特例ならなんとか払えたという人も多い。今年は12ヶ月分になる。今はまだ、2割特例があるが、今後、消費税が負担で事業をやっていけないという事態が起きる」と危惧しています。

インボイスは手取りが減る

集会ではフリーランス当事者による報告もありました。

甲斐清香さん(左)と栗田隆子さん=東京都千代田区

フリーランスで映像編集の仕事をしている甲斐清香さん

映画やドラマの編集の仕事をしています。
制作会社からインボイス加入の確認書が届き、加入しないと今後は仕事を振れないといわれて、加入せざるを得なかったという声もきいています。
免税事業者でいると決めた方も、「2割特例」のために売上金額にかかる消費税を8がけにして請求書を出しますといわれ、どう対処していいかわからない。書面上の消費税を8%にするわけにはいかないので、いままで通り10%で計算し、手取りのギャラを減らすしかないんです。インボイスは手取りが減るということなんだな、と改めて実感しました。
始めからギャラを減らされる人もいます。物価高の中で収入増どころか、逆行している状況です。
映像編集で働いている人はほとんどが、1000万円以下。若い人や、この仕事が好きで細々と続けたいと思っている人を苦しめる制度、それがインボイスだと思っています。
すでに1000万円以上稼いでいるスタッフからは「登録した方が利口だよ」と言われましたが、そういう人には影響がないんです。お金に余裕がある方は専門の会計士を雇ってしのいでいける。そこの格差も広がってしまう印象がある。

気がつかないうちに血を採られるシステム

フリーランスユニオンの栗田隆子さん(文筆家)

フリーランスユニオンは、ウーバーイーツの配達員やヨが講師、ピアノの先生などフリーランスが集まって結成した労働組合です。日本では、フリーランスは労働者性が認められていない。インボイスが始まって、フリーランスの働き方について、政治を司る方が知らないんだな、ということが明らかになった。
労使交渉の権限を持っていないのに、消費税分を対価に上乗せしてくださいなどという交渉ができると思っているのでしょうか。財務省は全然わかっていなかった。それが衝撃でした。私たちのことってちっとも知られていなかったんだな、と。
消費税を「益税」とかいって、この働き方(免税事業者)がずるをしていると思われていたのも衝撃でした。慣れない経理作業をして、払えないものも払っているのに、ずるしていると思われてたんだ。インボイスがそういう風に進んでいったんだと驚きました。
私は未登録の状態です。その中で何が起きたかというと、原稿料がスッと下がった。(発注者からの)アンケートに「インボイス登録なし」と書くとスッと下がる。
「インボイスのせいですか?」と訊くと「当然でしょう」と言われる。訊かなければ何も言われずにスッと下がる。取引先からの明言はない。けど、スッと下がっている。
取引排除にあったかどうかというのも、よくわからない。
単発や不定期にもらっていた仕事の頻度が減ったのは、「排除」なのかどうか。私たちは証拠すら出せないんですよ。インボイスのせいなのかどうかすら、証拠を取るのが難しい。でも、計算すると収入が下がっているという状況になっている。もう1年2年経たないとはっきりしたことが言えない。私たちのように証拠を出せないという立場のこともどれだけ考えているのか疑問です。
最近はネットで会計ソフトの広告ばかりが出てきます。初年度無料とうたわれているけど、登録すると経理作業のクラウドのアプリでお金が取られていくシステム。会計士が雇える状況ではないフリーランスが、じわじわとお金を取られていく。気がつかないうちに血を採られていくような。もどかしさがある。
インボイスを理由にした値引きは確実に行われています。それははっきりとお伝えしたいと思います。

「STOP!インボイス」は今後も署名を上積みし、国会に中止や廃止の請願を続けるとともに、地方議会に働きかけて、中止や廃止を求める意見書の可決を後押ししていく予定です。