10月にジュネーブで開かれた国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の日本報告審議。現地参加したNGOのネットワークが12月3日、東京・参議院議員会館で報告集会を開きました。国会議員48人を含む213人が会場に集まり、オンラインを含め約500人が参加しました。
CEDAWの日本報告審議は8年ぶり。日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)によると、ジュネーブで委員会傍聴や委員へのロビー活動に参加したのは22団体84人。ほかに動画による参加が1団体ありました。
10月14日の非公式NGO会議では、JNNCと日本弁護士連合会が分担し、5分間の発表を行いました。
このとき訴えた日本の課題は次の通りです。
【総則的課題】
・選択議定書の速やかな批准
・包括的反差別法の制定
・国内人権機関の設置
・国会内に常設のジェンダー平等委員会を設置
・女性候補者比率に対する法令によるクオータ制の導入
・固定的性別役割分担の変革
【個別的課題】
・男女賃金格差や低年金問題の解消
・選択的夫婦別姓の実現、婚外子差別の撤廃
・「慰安婦」問題
・妊娠中絶の非犯罪化、中絶への配偶者同意要件の削除、包括的セクシュアリティ教育の導入
10月17日に日本報告審議があり、JNNCも現地で記者会見を行いました。
10月30日、CEDAWから総括所見の発表があり、日本政府に懸念事項と勧告が伝えられました。
「在沖米軍による性暴力」「ジェンダー平等省の創設」も勧告
新たな勧告として次のようなものが上がりました
・沖縄の米軍による性暴力の問題について、「ジェンダーに基づく暴力」「女性・平和・安全保障」の2カ所で言及。
・ジェンダー平等省の創設を求める。
・女性・市民団体との連携を推奨。特に来年度の第6次男女共同参画基本企画策定・実行に関して。
また、継続して勧告を受けている日本軍「慰安婦」問題では、被害が続いている限り国の責任は続くと指摘。教科書からの削除に、初めて懸念が示されました。
報告者でJNNC共同代表の柏原恭子さんは「これほど多くの女性が、日本からジュネーブに行って委員に訴えたのは、国内では女性差別的な課題が解決できないということだと思います。ある委員は『日本は豊かな国だけど、女性が貧しい国』と言いました。勧告の多くが身近な生活にかかわることです。政府に対し、速やかに実行するよう求めていきましょう」と話しました。
23団体の成果、リレー形式で発表
JNNC加盟の23団体と日本弁護士連合会が、それぞれ「ロビー活動のポイント」と「総括所見への反映」についてリレー形式で発表しました。いくつかの団体の発言を紹介します。
◆反差別国際運動(IMADR)
差別は構造的であり、多くの場合、複数の差別理由がそこに組み込まれています。複合差別(交差性差別)と呼ばれるこの差別に現行法は対処していませんし、救済規定もありません。総括所見は国内人権委員会設置の法案が進展していないこと、「交差制」という横断的な視点が様々な法律や制度に欠如していることに懸念を示し、政府の早急な対応を促しました。IMADRは部落、アイヌ、在日コリアン、琉球の女性たちとともに、これら勧告の速やかな実施を求めます。
◆すぺーすアライズ
すぺーすアライズではSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の実現や婚姻生活における性的、及び、経済的な、実質的平等の実現について、委員への個別説明、報告書提出をしました。
総括所見、勧告に反映されたものを列挙すると、「刑法堕胎罪の削除」、「母体保護法の配偶者同意要件の削除」、「中絶サービスへのアクセス障壁の撤廃」、「経口中絶薬へのアクセスに対する設備的・経済的障壁の撤廃」、「人工妊娠中絶に関する経済的負担の軽減」、「緊急避妊へのアクセスの早期実現」、「包括的性教育の実現」、「婚姻財産についての実質的平等」、「同性婚の実現」、「婚姻内性暴力の独立した犯罪化」などがあります。
◆ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)
女性は男性の7割しか賃金が得られないという男女間賃金格差があります。主な原因は管理職女性比率の低さ、人事考課でのジェンダーバイアス、非正規労働者の低賃金です。総括所見では、「管理職の女性割合を50%に増やす」、「非差別的で非主観的な評価方法を適用する」、「企業に賃金格差の理由の説明と改善措置を公表させ、同一価値労働同一賃金原則を実施」、「正規雇用へのアクセスの機会を提供し、非正規労働者に手当てを拡大する」、「裁判官に対し雇用におけるジェンダーバイアスの研修を行う」「間接差別の禁止要件をより広くするため均等法を改正する」などが求められました。
◆貧困・女性・子ども・障害の資料室
総括所見では、OECD最悪貧困率、特にシングルマザーと高齢女性の貧困の深刻さ、不安定低賃金就労に女性が多いこと、そして不利な女性に特に配慮しつつ貧困を削減する必要性が、セーフティネットの機能不全とともに指摘されました。日本国籍のない女性の困難と貧困、貧困による性的搾取や人身取引についても、明確に反映いただきました。
参加した国会議員からは「CEDAWの勧告を、今後の国会審議に生かして、パリテ(男女同数議会)や選択的夫婦別姓などの実現を求めて行く」「沖縄の女性への性被害について、初めて言及があったのは画期的だ。日米地位協定の改定を促したい」「根っこにあるのは男女の賃金格差。是正を強く求めていく」などのアピールが相次ぎました。
内閣府「時間軸を定めて対応を進める」
内閣府男女共同参画局からは岡田恵子局長の代理として総務課長の大森崇利氏が出席しました。CEDAWには日本代表団として同局などから約30人が参加、140項目について委員から質問を受けました。
大森氏は「CEDAWでは(日本政府の施策に対し)積極的な評価の一方で、課題についてもご指摘いただいた。勧告については時間軸を定めまして、関係省庁と対応を進めて参りたい。勧告の翻訳を正式に作成し、各所にご報告していきたい。来年は男女共同参画の改定にあたる年。来夏に基本計画策定した後に、公聴会などでみなさんのご意見をいただきたい」と話しました。
女性の権利章典、誠実に履行を
最後にJNNCの亀永能布子さんが「CEDAW勧告の速やかな履行を求める決議」を読み上げました。
「CEDAWの総括所見は、日本のジェンダー平等政策がジェンダー主流化を推進する世界の流れにまったく追いついていない現状をあぶり出し、日本の女性の権利が大きく制限されている現状に懸念を表明しました。総括所見は、条約の履行促進と選択議定書の批准をはじめとする多岐にわたるテーマについて踏み込んだ勧告を行っています」
決議では、2年以内に実施報告が求められているフォローアップ項目4点を挙げ、「これらはすべて、ジェンダー不平等を解消し、女性たちが抱える課題を解決するための喫緊の課題です」としました。
1)選択的夫婦別姓の実施
2)暫定的特別措置として、女性が立候補する際の供託金の減額
3)すべての女性と少女の緊急避妊薬を含む現代的避妊法へのアクセスの提供
4)妊娠中絶における配偶者の同意要件の撤廃
「女性差別撤廃条約は私たち一人ひとりの権利を保障する『世界の女性の権利章典』です。私たちは、政府が条約の履行に努め、選択議定書の速やかな批准を含む女性差別撤廃委員会の勧告を第6次男女共同参画基本計画に取り入れ、誠実に実行することを強く求めます」
参加者は集会の後、決議を石破茂首相と三原じゅん子男女共同参画担当大臣に提出しました。
女性差別撤廃委員会の総括所見の仮訳(内閣府版)はこちらで見ることができます。
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/report_241030_j.pdf