歌舞伎町で  問われる「若年女性支援」のあり方

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女性たちが夜の街で危険な目に・・・問題はどこにあるのかな

国内有数の繁華街、東京・歌舞伎町。安心して過ごせる場所がなく街をさまよう女性たちが、買春者や性売買業者によって日々危険に晒されています。さまざまな困難を抱える女性を支える「女性支援法」がスタートした際、東京都はこうした状況への対応に取り組むとしていましたが、この間、女性たちが「支援者」を名乗る人たちからも被害を受ける事態が相次ぎました。今、支援のあり方が問われています。

「駆け込み寺」元事務局長 相談者の女性に薬物勧める

東京・歌舞伎町にある新宿区立・大久保公園。夜、周囲には多くの買春者や性売買業者の姿があります。

公園の目の前にあるのが、若者らの相談を受け付ける団体としてメディアにも度々取り上げられてきた、公益社団法人 日本駆け込み寺です。

5月、駆け込み寺の元事務局長の男が、麻薬取締法違反の疑いで逮捕、その後、起訴されました。相談者の20代の女性にも違法薬物を勧めていたことが明らかになっています。清水葵代表理事(26)は事件についてこう話しました。

事件は信じられません。元事務局長が逮捕されたのは休日でした。まさか薬物を使用しているとは思わなかったし、休日に何をしているかまで把握するのは難しい(清水代表理事)

「駆け込み寺」とは

団体を立ち上げたのは、事件直後に共同代表を辞任した玄秀盛氏です。2002年から、いじめや引きこもり、借金など、“どんな悩みにも寄り添う無料相談所”として活動してきたといいます。

日本駆け込み寺の事務所

玄氏が率いる駆け込み寺はメディアにも多く取り上げられ、2023年度以降は、都から年間約3000万円の補助金を受け、都の若年被害女性等支援事業を担っていました。

東京都「事業への信用も損ねた」

都は、駆け込み寺に対し、2023年度と2024年度の補助金交付決定を取り消し、すでに交付済みの2355万円の返還命令を出しました。事件をどう受け止めているか都の担当者に聞くと――

Q支援団体の元事務局長が事件を起こしたことについて
「元事務局長自身が違法薬物を使用しただけではなく、支援する対象である女性に使用を勧めたことは問題です。団体の信用に影響を与えただけではなく、都の若年被害女性等支援事業そのものの信用を損ねる行為です」
 
Q事業者の選定は適切だったか?
「こうした問題を起こすことは想定していませんでした」

(子供・子育て支援部育成支援課)

駆け込み寺は、8月から、街での声かけ活動を再開しました。事件を受けた改善策としては、「相談者の個人情報の管理を徹底する」としています。

ほかにも「支援」の名のもとで起きた事件

歌舞伎町の「トー横」付近

歌舞伎町をさまよう女性たちの多くは、周囲の大人や学校、行政に助けを求めても適切に対応されてこなかった経験から、支援に対する強い不信感や抵抗感を持っています。そうした女性に、性売買の斡旋業者や買春者たちが「泊まるところがある」「住むところも仕事もある」と近づき、性搾取を繰り返しています。

大久保公園周辺のホテル街 女性に声をかける男性の姿が多く見られる

都は、女性支援法がスタートした際、困難な問題を抱える若年女性への対応にとりわけ力を入れるとしていました。しかし、駆け込み寺の元事務局長による事件以外にも、支援という名のもとに女性たちが被害にあう事態が起きています。支援者を名乗る男らによる性暴力事件、また、都が、歌舞伎町のトー横と呼ばれる広場近くに開設した相談施設「きみまも@歌舞伎町」で、20代の男2人がわいせつな行為をして逮捕された事件です。

「本質的な支援のあり方をめぐる議論が薄れていった」

この間、若年女性支援をめぐる状況は、どんなものだったのでしょうか。歌舞伎町などで14年にわたってのべ1万人の女性たちと繋がってきた、一般社団法人Colaboの代表 仁藤夢乃さんに話を聞きました。

Colabo代表 仁藤夢乃さん

若年女性支援団体を名乗りながら、また、補助金を受けて都の事業に携わりながら、女性たちを支えるのではなく、むしろ犯罪に巻き込んだことに強い憤りを感じています。(仁藤さん)

駆け込み寺の元事務局長の事件についてこう述べた仁藤さん。Colaboは、2018年、厚生労働省と都の若年被害女性等支援事業のモデル事業の実施団体に選ばれ、以来、委託を受けてきました。

Colaboが歌舞伎町の新宿区役所前で開催していた10代女性向けのバスカフェ

しかし、2022年7月頃から、インターネット上で膨大なデマや誹謗中傷を拡散され、活動の現場でも深刻な妨害を受けるようになりました。

生活ニュースコモンズ 困難女性支援法の「困難」②−2(2024/6/1配信)より

Colaboに対する嫌がらせが起きたのは、私たちが、性売買のなかにいる少女や女性たちとつながって、そこから抜け出すきっかけをつかむという活動をしているからこそだったと思っています。Colaboが行っているのは、少女たちに、ただ食事や泊まるところを提供してそれで良かったねというものではありません。少女たちが、性売買をしなくても自分の人生を生きていけるように支えるというものです。(仁藤さん)

妨害を受けていた頃、都の若年女性支援事業はColaboのほか3つの若年女性支援団体に委託されていて、これらの団体にも攻撃は拡大していきました。そして2023年度から、都は、事業の形を補助金事業に変えて事業者の公募を始めます。このとき、都が求めた場合、支援対象の女性たちの個人情報を開示しなければならない規定が設けられたことから、Colaboは応募しませんでした。個人情報が行政に提供されることが前提になれば、女性たちとつながれなくなると考えたからです。

結局、Colaboが抜けた穴を埋めるように都の事業を担うようになったのが、駆け込み寺でした。

私たちは駆け込み寺について、少女の人権や尊厳が守られる、そういう目線で活動している人たちではないと感じていましたので、連携団体として活動しなくてはいけないことになると少女たちの安全を守れないと思いました。それも都の公募に申請しないという決断をした理由の一つです。玄・前代表理事は、Youtube番組で、大久保公園周辺にいる少女たちを “立ちんぼ”という差別的な言葉を使って呼び、「“立ちんぼ”の話を聞きたいのなら、アウトリーチについてくればいい」「土曜日は撮りごたえある」などと話しています。少女たちを見せもののようにして消費する目線を感じました。また、「女性や子どもを守るのが信念」とも語っていますが、俺が少女を守るというその価値観は、少女たちを男社会の構造の中にしばりつけ、弱い、助けられる存在として扱っているように感じます。ただ、そうした“男らしさ”の価値観に基づく人たちばかりがメディアでコメントするようになりました。そのことによって、本質的な支援のあり方をめぐる議論が薄れていったと思っています。(仁藤さん)

事件が起きた都の若者向けの相談施設きみまもについては――

Colaboが都の事業から抜けた後に開設された、きみまもという施設については、ある少女が言っていました。「トー横に屋根をつけただけのような場所だ」と。(仁藤さん)

東京都が開設した「きみまも」

きみまもでは、カップラーメンなどの軽食を無料で提供するほか、スマートフォンの充電器などがあり、都は「ひと休みしながら相談できる場所」と謳っています。しかし、スペース内に男性が寝転んでいる姿が目撃されていたり、きみまもを訪れているという男性が「女性たちに貢がせている」とSNSに書き込んだりしていることが、都議会のなかで指摘されていました。

きみまも内に用意された軽食

若年女性支援」をめぐる都の今後の対応策は 

Q若年女性支援を担う事業者を選ぶ際、今後の改善策は?
「要項を改定し、事業者が遵守すべき事項を詳細なものにしました。例えば、支援者と女性の適切な関係を確保するための規定を整備することや、支援者と女性間で個人の連絡先交換を禁止すること、女性に対して支援の場以外の場で個人的な相談を行うことを禁止する、などです」
(子供・子育て支援部育成支援課)
 
Qきみまもの運営については
「事件が起きた去年7月は、利用者の多さもあり運営や対応に苦慮していた頃です。その前から、相談体制の強化を検討していました。ことし5月からは、1.5倍の広さがある場所に移動し、成人と未成年それぞれが使えるフリースペースをパーテーションで区切るようにしました。また、相談員や警備員を増員し、警察OBの配置も行なっています。法テラスと連携し週1回弁護士にも相談支援に入ってもらっています」
(都民安全課)

きみまも内のフリースペース

問われる「支援」のあり方 

女性支援法が施行されてまもなく1年半。支援のあり方が問われるなか、仁藤さんはこう話します。

Colaboが行っているのは、少女たちが、自身の受けた傷が何だったのかという痛みに向き合ったり、背景にある構造を見つめ自己責任だと思わされてきたところから脱したりする過程を共にするというものです。自分の人権が尊重されてこなかったと気づき、そこから回復して自分の人生を歩いていくということですので、少女を「弱い助けられる存在」として扱うような活動とはまったく違います。(仁藤さん)

仁藤さんが強調するのは、女性たちが危険な状況を選ばずに自分の人生を生きていけるよう、ともに考え行動するための関係性を築いていくことの重要性です。

アウトリーチも、窓口があることを知ったり、案内されたりしても行こうと思わない女性たちとつながっていくための活動です。少女たちが、過去の被害に向き合いながらどうやって生きていきたいのかをともに考え、希望を実現できるような選択肢を用意し、ともにその道を作っていくというのが実際の支援だと考えています。(仁藤さん)

「社会構造に目を向けて」

いま、歌舞伎町の大久保公園周辺では、海外からの買春客も増えるなど状況がさらに悪化しています。

妨害後、歌舞伎町をアウトリーチのために歩いていると、性売買業者などから「仁藤さんお疲れー」「警察はお前らのことなんて守ってくんねえよ」などの言葉を浴びせられるようになりました。私たちが少女たちへの声かけに行く様子を写真に撮ったり、面白がるようにあざ笑ってきたりします。
ここ数ヶ月で特に変わってきたと感じるのが、半グレ組織の活発化です。全国各地から少女を売春させるために来ています。昨日も私は夜の街で声かけをしましたが、16歳、17歳ぐらいの少年たちが少女たちを管理して売春させ、その裏で大人たちが彼らを操って見張っているのではないかという状況を見かけました。そうした半グレ組織が若年女性支援団体を名乗るようにもなってきていて、少女たちに「ご飯をあげる」と声をかけたり、「Colaboに行くと警察に突き出されるよ」と虚偽の情報を流し、少女たちがColaboとつながることを阻止しようとすることもあります。買う側の男性たちの姿というのも最近は本当に堂々としてきていて、5人くらいのグループで来る人もいます。どれにするかとジャンケンで決めている姿も見かけました。それだけ買う側にとっても、性を買うということが当たり前に堂々とできる場になっています(仁藤さん)

一方で、女性たちに対する取り締まりは厳しくなっています。7月25日、Colaboが緊急の記者会見を開きました。

7月25日 東京・霞が関の司法記者クラブ

7月24日、大久保公園周辺で客を待っていた女性4人が売春防止法違反の疑いで逮捕されました。複数の報道機関が、買う側の男性たちの顔にモザイクをかける一方、女性たちを顔出し・実名で報じました。会見で仁藤さんらは「女性たちに対する人権侵害だ」と抗議。そこでも繰り返し指摘したのは、「女性たちが危険な状況を選ばざるをえない社会構造に目を向け、そうしなくていい選択肢を社会の側が用意するべき」というものでした。

女性たちの背景にあるのは様々な困難です。障害を抱えている人もいますし、多くが、自分にはこれしかできることがないと思わされている状況です。逮捕されれば今度はもっとうまくやれよと性売買業者からの支配が強まることもあります。性売買の中にいる女性が、そこから抜け出すのは本当に容意ではなく、危ないから行かないでということでは何の解決にもならないわけです。
ホストが女性に借金を背負わせてそこに追いやったり、性売買業者がそこに立たせたりしている。そうではない選択肢を社会の側が用意したり、自分にはいろんなことができるんだと感じられる機会を作ったりするような支援が、圧倒的にこの社会にはない。事件については、女性の責任にするのではなくて、社会の構造的な問題として捉えてほしいと思います。(仁藤さん)

会見には、女性が受ける暴力や性被害について取り組む角田由紀子弁護士も同席し、今の法律に買春者を処罰する規定がない問題について指摘しました。

角田由紀子弁護士

日本の売春防止法には、売る方も買う方も両方禁止すると書いてありますが、買春者を処罰する規定がありません。国際的には時代遅れの状況です。売春防止法は、見せしめのために女性を摘発する道具になっていて、本来保護されるべき女性が、犯罪者としての扱いを社会的に受けている。(角田弁護士)

どういう社会構造のもとに女性たちが置かれているのか。その大元に目を向けていくことの必要性が、若年女性支援の現場から問われています。

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